2023年に開館したミュージアムより

碧南市藤井達吉現代美術館
碧南市藤井達吉現代美術館

1 静岡市歴史博物館 (1月 グランドオープン)

 静岡駅から徒歩約10分、駿府城巽櫓のすぐ前という絶好の場所。基本展示室(常設展示)は2階、3階にわかれ、2階では徳川家康およびそれ以前に東海地方を支配した今川氏に関する展示、3階では城下町駿府の暮らしと近代以後の静岡の歩みを紹介している。いずれもテーマに沿って映像、写真、複製資料をふんだんに用いて、わかりやすい展示を実現している。古文書などの実物資料も、展示替えにより長期間の展示を避けながら見せるようにしている。3階には企画展示室となっている。
 1階は無料のゾーンで、この館をつくるために行われた発掘調査で発見されたおよそ30メートルの戦国時代末期の道をそのまま公開。また、静岡名産の茶などが供されるカフェが置かれ、小規模ながらショップも併設されてユニークなご当地商品が販売されている。

→ 静岡市歴史博物館(外部リンク)


*原則月曜日休み



2 碧南市藤井達吉現代美術館 (5月 リニューアルオープン) 

 碧南市は名古屋市の東南の臨海部にあり、人口は約7万人。美術館の最寄り駅は名鉄三河線の終点碧南駅で、2両編成の各駅停車で向かう(ラッシュ時は4両になるらしい)。かつては海上交通の要衝であり、戦後は臨海工業地区として栄えたとはいえ、場所や人口の規模を思えば、はたしてどれだけの文化的な活動が可能であろうかと思う向きもあるかもしれない。あにはからんや、この碧南市藤井達吉現代美術館は、大都市にあって規模が大きく知名度の高いミュージアムに勝るとも劣らない優れた展覧会を次々に企画し実現している。
 開館は2008年。築25年を経て役割を終えた商工会議所ビルを転用し、基本的には旧建物を生かしつつも、大胆なリノベを行った。例えば、もとはホールであった部屋は天井高がみごとに確保されて、ゆったりと鑑賞可能な展示室へと生まれ変わった。西側部分にはガラス張りの吹き抜けの空間を増設し、外からは美術館の顔に、内側は居心地のよいカフェとなった。展示室は2階と1階に配置し、1階には多目的室など、地下には情報コーナーなどを置いて、3階を収蔵庫とした。
 開館以来十数年を経て、所蔵作品の増加に見合う収蔵庫面積の拡大が必要となり、合わせて展示スペースの拡張と整備、保存修復室の新設などのために、2020年から休館してリニューアルされることになった。駐車スペースであった西南部分に増築が行われ、増設部分2階に新設された多目的室は自然採光が可能で、コンクリートの冷たさを感じさせず、近現代美術の展示にふさわしいスタイリッシュな空間で、当面は展示室として活用されるとのこと。1階にあった旧多目的室は常設展示室となり、この地出身の美術家藤井達吉の作品を常時鑑賞できる部屋となった。
 日本の文化行政は、箱モノをつくって終わりという貧しい体質から抜け出せないといったイメージが残念ながらある。しかし、この美術館はまさにその逆をいっている。既存建物を再利用し、優れた展覧会の開催の努力を怠らず、内容の充実にともなってリニューアルしながらさらなる発展をめざすことで、地域ミュージアムの1つのモデルを生み出している。今後とも期待したい。

*参考 『近代建築』2008年7月号、2023年9月号

→ 碧南市藤井達吉現代美術館(外部リンク)


*原則月曜日休み



3 宮崎進記念美術館「M.G.P」 (6月 開館)

 長く多摩美術大学で教鞭をとり、2018年に亡くなった洋画家、宮崎進(しん)さんの記念美術館。ご本人の遺志によって、別宅として用いていた建物を用いて、残された未発表作品などを展示する。
 展示スペースは1階と地下それぞれ各1室で、それほど広いものではないが、とてもぜいたくな空間である。天井が高く、自然光が入る白色のスペースに、ゆったりと作品が並ぶ。床の磨かれたコンクリートも美しい。このスペースは画家のアトリエ兼住居として2011年につくられたもので、どうやら将来ギャラリー的な活動を行うことを含んで設計されていたということらしい。
 当面は「常設展示」として週1回公開し、宮崎さんの作品を十数点展示する。展示替えの時期は前もっては決めず、入館の状況を見ながら適宜決めるとのことで、予定などはインスタグラムで告知される。

→ M.G.P(外部リンク、インスタグラム)


*当面、木曜日開館。最寄り駅は東京メトロ東西線神楽坂駅



4 URまちとくらしのミュージアム  (9月 開館)

 

 JR赤羽駅の西側は、にぎやかな商業地域を抜けると、高い台地に突き当たる。その上にはかつて3000戸をこえる巨大団地、赤羽台団地が広がっていた。2000年より順次再開発され、今はヌーベル赤羽台というとてもおしゃれな住宅街に生まれ変わっている。
 その間の2018年、日本建築学会からまだ取り壊されずに残っていた旧赤羽台団地の住宅4棟について、保存と活用の要望が出された。これをきっかけに、赤羽台団地41~44号棟が団地住宅建築としてははじめて国の登録有形文化財となり、これら4つの棟のある区域にUR都市機構(独立行政法人都市再生機構、その前身が日本住宅公団)によってミュージアムが設立されることとなった。
 保存された4棟のうち、42~44号棟は中心部から3方向にそれぞれ1戸の住宅を置き、それが5階建てになっているという形のもので、上から見るとY字の形をしている。正式名称はポイント型住棟というが、スターハウスの愛称で親しまれ、ともすれば単調な配置になりがちな団地にアクセントを与える住宅であったが、実際には建設費や土地利用効率上デメリットが大きく、あまりつくられることはなかった。それが3棟残ったのは貴重である。一方、41号棟は団地でよく見る細長い直方形の姿をしている。廊下をつくらず、階段をいくつも設けて、各階階段の左右に部屋を配置するという、団地のおなじみの形である(板状階段室型という)。
 これらは4棟は、外観の塗装など建てられた時点に近いものに復元されている。しかし内部は公開されておらず、どのような形で活用していくのかは今後の課題となっている。41号棟については、隣接する東洋大学などとコラボし、未来の住宅を模索する場としていくらしい(ラボ41)。
 建物に囲まれた野外空間は、旧東鳩ヶ谷団地からの移設である。ワークショップ広場と名づけられて、どのような事業やイベントが可能か提案を募っていくとのこと。
 これらに加えて、ミュージアム棟が新設された。八王子にあった集合住宅歴史館(2022年閉館)で再現展示されていた戦前、戦後の集合住宅4地区6戸を4階から2階にかけて積み木のように組み合わせ(1階は受付とURシアター)、これらを巡りながら日本の集合住宅の歴史とその意義を知ることができるようにした施設である。木材を多用し、広く窓を取ったスタイリッシュなつくりであるが、決して保存された旧団地棟を押しのけるような悪目立ちはせずに、この空間内で調和を保っている。ただし、建物の中にかつての住宅そのものを展示しているため、いきおい通路やフロアをつなぐ階段などは狭くなってしまい、見学は1回20人でのツアー形式で行われている。

*参考 『東京人』471号(2023年10月号)、「URまちとくらしのミュージアム開館記念トークイベント 団地を通してまちとくらしの未来を探る」(『新建築』98巻14号、2023年11月号)


→ URまちとくらしのミュージアム(外部リンク)


*水曜日、日曜日、祝日は休み。見学は1日3回実施(10時、13時、15時)。所要時間は約100分で、事前申し込み制。説明はていねいで、充実した見学ができる。まれに「特別公開日」として、自由見学ができる日もあるらしい。入館無料




5 松本市立博物館 (10月 移転オープン)

 松本市立博物館の前身は、1906年に開かれた明治三十七、八年戦役紀念館であるという。明治三十七、八戦役というのは日露戦争のことで、場所も現在国宝指定されている旧開智学校(当時は尋常高等小学校男子部)の中であった。のち松本紀念館、松本市立博物館、日本民俗資料館、松本市立博物館と名称が変更され、長く松本城内にあったが、施設の老朽化のために2021年に閉館となった(なお、現在は旧開智学校は松本市立博物館の分館という扱いになっているらしい)。
 新たな博物館は松本城の南、武家屋敷だった場所にオープンした。歴史を重ねて、収蔵品はさまざまな分野にわたって10万点以上という。それらを収蔵する空間が確保され、あわせて展示室も拡大された。
 3階建てで、白い重厚な建物だが、近づくと木材が多用されていることがわかり、落ち着いたあたたかい雰囲気に包まれる。1階は受付、ショップのほか、講堂や子どものためのスペースなど、開放的につくられている。2階は特別展示室、3階が常設展示室である。
 常設展示室は天井を高くとり、テーマごとに整理された展示を自由に回遊しながら見ることができるようになっている。全体に展示数は絞り、解説文もシンプルにしている。大きな見出し、小さな見出しから、それぞれの資料へと目線は自然にいざなわれ、展示ラベルでは専門的な用語よりも、そのモノの見どころを優先して紹介する。工夫を重ねてたどり着いた展示の形なのであろう。町のジオラマの下部に発掘された遺物の展示があったり、露出展示された実物資料や模型の周りに設けられた結界には弾力性のヒモを用いていたりと、細部まで行き届いているのがうれしい。
 1階のショップはそれほど広くはないが、地域の特産品が並んで楽しい。カフェは民藝家具店の机椅子をぜいたくに用いている。


→ 松本市立博物館(外部リンク)


*原則火曜日休館(1階のショップ、カフェは第3火曜日のみ休み)

 

 

 

 

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松本市博物館
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