龍音寺の聖観音像
大平の里の平安古仏
住所
沼津市大平2852
訪問日
2011年9月4日
拝観までの道
龍音寺のある沼津市大平は沼津駅から東南へ数キロ、狩野川西岸にあり、沼津駅と三島駅からバス(沼津登山バス)が通う。龍音寺の最寄りのバス停は、 三島駅から大平車庫行き、または沼津駅から大平行きの「南町」。バスの本数はそれぞれ1時間に2本程度で、沼津からも三島からも30分近くの乗車が必要となる。
この地は韮山と沼津駅を結んだちょうど中間あたりにある。古くより、中伊豆から駿河方面に抜ける交通の要衝であったらしい。
龍音寺について
寺伝によれば、14世紀末に旅の僧がこの地に石雲庵というお寺をつくったのがはじまりで、16世紀に曹洞宗寺院として再興し、石雲山龍音寺としたという。
本尊は、伊豆に流れ着いた観音像といい、「厄除観音」として信仰を集めたが、のち大火もあって次第に衰微した。
今のご住職の代になって本堂を新築し、本尊も1980年に修理を行ったのだそうだ。
拝観は随時可能ということだが、法事等の場合もあると思うので、事前に連絡をして行くのがよいと思う。
龍音寺の聖観音像
本尊聖観音像は、ヒノキの一木造。平安時代の作である。沼津市教育委員会発行の『沼津の文化財』には像高は151センチとあるが、大きさを感じる堂々とした立像である。
かつては、釘を多用し、粗悪な彩色を使用した過去の修復によってひどく像容を損ねていた。1980年の修理によって面目を一新した。失礼ながら、この場所にこれほどの像があるとはとびっくりするほどのすばらしい像だった。
まげはやや低く結う。丸顔に目や口もとの抑揚がよく出ていて、優しい表情を作り出している。額はやや狭い感じ。
下肢は少々短いが、全体にプロポーションはよい。片足は若干踏み出しているものの、ほぼ直立に近い。胴はまるまるとつくる。
条帛や裙の折り返しの部分には陰刻線を用い、下肢では翻波式衣文の名残りが見られる。また両足の間には渦巻きの文がある。
裙の打ち合わせから足の甲へとかかってゆく曲線も変化がついて面白い。
その他(徳楽寺について)
龍音寺から西へ20分ほどのところに臨済宗の徳楽寺というお寺がある。最寄りバス停は三島駅南口から大平車庫行き沼津登山東海バスの終点。
地区で管理にあたっている方に事前にお願いしたところ、拝観させていただけた。志納。
境内の観音堂本尊の聖観音像は、小ぶりな木彫の立像。厨子中に安置される。平安時代の作と推定される。
「足切観音」とも称されるが、これは南北朝時代後醍醐天皇の皇子である宗良親王が合戦中に足を切られた際、身代わりとなって足を切られ血を流しと伝えられている。
また、駿河・伊豆横道三十三観音の9番めの札所で、お堂の中にはいくつも絵馬がかけられている。
かつて厳しい保存環境のもとにあったようで、表面はあれ、目鼻立ちもよくわからなくなって、木目が浮き出している。
しかし、痛々しさよりも、長い歳月を経てきた神々しさを覚える。前面の頭飾、裙の折り返しや天衣のつくりは素朴で、地方作の仏像の親しみやすさも感じられる。
さらに知りたい時は…
『観音霊場と巡礼の記録』(展覧会図録)、沼津市歴史民俗資料館、2006年
『沼津の文化財』、沼津市教育委員会、1982年