地福院の吉祥天像
海に面した崖のお堂に安置されてきた像
住所
河津町縄地430
訪問日
2013年11月17日
拝観までの道
地福院(じふくいん)は下田市との境に近い河津町南部にある。
行き方は、河津駅前から東海バス下条・下田駅方面行きで「縄地」下車、北へ徒歩5分。
ただしバスは日中数本しかなく、日曜日にはさらに少なくなるので注意が必要。
河津駅前に常駐するタクシーを使うと2000円弱。
拝観は事前連絡必要。
拝観料
志納
お寺や仏像のいわれなど
地福院は、前身の寺院があり真言宗であったというが、1600年に曹洞宗寺院として再興された。近くには伊豆の金山(縄地金山)があり、大変栄えたそうだが、金山が衰退するとほかにもあった寺院は次々と退転し、ただ一か寺このお寺が残ったのだという。
本堂の本尊(銅造の大日如来像)に向かって左側の間に、一木造の吉祥天像が厨子に入って安置されている。
かつては海に面した崖のお堂に安置されていたものという。お堂は薬師堂と呼ばれ、このお像は薬師如来としてまつられていたらしい。姿はあきらかに女神の像であるのだが、広隆寺の旧金堂本尊像のように明らかに天部形をした薬師像も存在するので、そうした特殊な信仰の像であったのかもしれない。
昔は60年に一度開帳される秘仏であったという。
拝観の環境
暗い場所だが、近くよりよく拝観させていただける。
仏像の印象
吉祥天像は像高約120センチの立像。針葉樹材の一木造。内ぐりもない古様なつくりで、平安時代後期ごろの作と思われる。
全身に朽損が進んで、両手、足首以下など後補となっている。面相部は他の部分の傷んでいる様子と比較するとつややかで、おそらく後世の手が入っていると思われる。
頭部は小さめで下半身が長い。また横幅もしっかりととり、一木造の堅牢なつくりもあって、どっしりと堂々とした像であるが、同時に可憐な美しさを感じる。衣を重ね着して、天衣をまとい、裙のひもの結びもかわいらしい。
顔は補修もあるとはいえ、整った目鼻、わずかに突き出した小さなくちびる、しっかりとつくられた顎、左右にかかる豊かな髪と、たいへん美しい。
右の膝のあたりには節があり、そのために下半身の木材は曲線を描いている。決して使いやすい木材でないものを選択しているのは、それ相応の理由があってのこであろう。
さらに知りたい時は…
『無冠の仏像』(展覧会図録)、上原美術館、2022年
『伊豆の平安仏』(展覧会図録)、上原美術館、2018年
「伊豆の仏像を巡る」52(『伊豆新聞』2013年06月02日)、田島整
『伊豆の女神像』(展覧会図録)、上原仏教美術館、2010年
「広隆寺本尊薬師像考」(『学叢』18)、伊東史朗、1996年3月