善光庵の十一面観音像
忘れがたいお顔立ちの像
住所
河津町峰400
訪問日
2013年11月17日
拝観までの道
河津駅から北西に徒歩約30分。
バスでは、河津駅前から修善寺駅行き東海バスにて「踊り子温泉会館」下車。バスは1時間に1本程度。
バスを降りて、河津駅側へ少し戻ると、左側にバス停名にもなっている踊り子温泉会館(町営の日帰り温泉)がある。そのすぐ右脇に「新町の大ソテツ」という天然記念物の大きなソテツがある。
その踊り子温泉会館の向かいに西側へ入る道がある。細い道が曲がりながら続くが、やがて善光庵を指す案内が出てくるので、それに従って進むと高い石垣があって、その上が善光庵である。バス停からものの数分の距離。
拝観には事前の許可が必要。ご管理の方に連絡をとったところ、文化財指定されているので町の教育委員会へも連絡してくださいということで、教育委員会に電話をしてご許可をいただいた。
*その後知人から聞いたところでは、現在(2016年)、個人の拝観は受け付けていないとのこと。
拝観料
志納
お寺や仏像のいわれなど
日本全国の仏像を旅した評論家の丸山尚一さんは、善光庵を訪れた記録をその著書『地方仏』に書いている。それによるとかつては「峯のお堂」と呼ばれ、さらに昔は「稲荷小祠」という名前であったらしい。
何年も鍵をあけていなかったので、誰が鍵をもっているかすぐにはわからず、結局伊豆の名物ともなっている大ソテツのあるおうちの方が開けてくれたとある。それが今踊り子温泉会館に接する大ソテツのことなのであろう。
このお堂は曹洞宗に属しているそうだが、管理は地域の方が行っている。
もともと33年に一度本開帳される秘仏であったという。また、江戸時代にかつての本尊が焼失し、南禅寺(なぜんじ)から移された像だとも伝える。
拝観の環境
お堂は東面し、十一面観音像はその中央奥の厨子中に安置されている。
厨子の前には祭壇がつくられていて、開扉するにはそれを動かす必要がある。ご管理の方はきさくで、慣れていますからとおっしゃって手際よく扉を開いてくださった。お時間と手間をとらせて申し訳ないことではあったが、像はとてもすばらしく、お願いをしてよかったと思う。
近くよりよく拝観させていただけた。
仏像の印象
像高は約160センチ、髪際からは約130センチの立像である。それほど大きな像ではないが、存在感があるために、大きく感じる。下半身がややつまった印象だが、足首以下は後補なので、あるいは本来はもう少し下半身が長かったかもしれない。
針葉樹材の一木造で、内ぐりもない古様なつくり。表面の黒い仕上げは後補で、もともとは素木像であったのかもしれない。
顔は小さめ。まげはそれほど高くないが、ゆったりと大きく結う。その上の本来仏面である頂上面は、長い髪をあらわし、女神の像であるようにも思う。これはとても珍しい。
顔で特徴的なのは左右の眉と鼻の上端がつながっているところで、目は半眼といってもある程度見開きはあり、顎もなかなかしっかりとつくっている。そうした個性的な顔立ちだが、前に座って下から見上げるようにすると、とても優しい顔立ちに感じるのは不思議である。
ほぼ直立するが、腰は若干ひねり、裙は二段に大きく折り返し、その下に裙の打ち合わせの線がぐるりと曲線を描く。肩の天衣、条帛、裙の襞(ひだ)は鋭く高い線ではないものの、リズムよく高低を繰り返す。お腹の2本の線の微妙なカーブも面白い。
その他
上に、この像の頂上面が女神像のようで珍しいと書いたが、こうした例は少ないながら他にもある。
「頭上面を女神形とする千手観音像について」という論文によると、次の仏像がそうであるという。
福井・横根寺千手観音像(1990年焼失)、滋賀・大岡寺十一面観音像、兵庫・大川瀬観音寺十一面観音像、新潟・長谷寺十一面観音像、新潟・宝伝寺十一面観音像、神奈川・弘明寺十一面観音像、長野・智識寺十一面観音像、岩手・天台寺十一面観音像、秋田・小沼神社十一面観音像、岐阜・神通堂十一面観音像。
このほか岩手・東楽寺十一面観音像も頂上面の髪が長く垂れているようにも見え、女神の頭部のようである。
これらは神仏習合の信仰を背景に色濃く持つ像と考えられる。
さらに知りたい時は…
『平安密教彫刻論』、津田徹英、中央公論美術出版、2016年
「伊豆の仏像を巡る」(『伊豆新聞』、2012年8月5日)、田島整
『伊豆の観音像』(展覧会図録)、上原仏教美術館、2012年
「頭上面を女神形とする千手観音像について」(『仏教芸術』196)、長坂一郎、1991年5月
『地方仏』、丸山尚一、鹿島研究出版会、1974年