佐野美術館の大日如来像
大阪・河合寺旧蔵
住所
三島市中田町1−43
訪問日
2010年3月6日、 2014年3月30日
この仏像の姿は(外部リンク)
館までの道
佐野美術館の最寄り駅は伊豆箱根鉄道駿豆線の三島田町駅で、下車後西南に徒歩5分。JRの三島駅南口からも歩ける距離である(徒歩20分くらい)。
三島駅南口の観光案内所には、無料のレンタサイクルもある(アシスト付きは有料)。
休館日は木曜日と展示替え期間。
入館料
展覧会ごとに異なる。
佐野美術館と仏像
佐野美術館は、三島市出身の実業家でコレクターの佐野隆一の寄贈によって成立した美術館である。収蔵品は東洋美術で、なかでも刀剣のコレクションが名高い。
彫刻は中国・朝鮮の小金銅仏、日本の仏像彫刻、近代の作家による作品の3種類がある。
日本の仏像彫刻としては、木造の蔵王権現像と大日如来像がある。
これらの像は、もと大阪・河内長野市の河合寺というところに伝来した像だそうだ。この寺は古代に開かれ、かつては河内南部の三大名刹にも数えられたそうだが、中世、近世の兵乱によって衰退。これら仏像も寺から流出してしまったのだろう。
この美術館では、毎回テーマを決め、1ヶ月から2ヶ月程度の長さで展覧会が行われている。
その一方で、2013年より常設展示室が設けられ、館蔵の名品を入れ替えながら展示するようになった。大日如来像や蔵王権現像はこの常設展示室で展示されるが、年4回程度展示替えを行うそうなので、ホームページ等にて確認の上お出かけされたい。
仏像の印象
大日如来像は像高90センチ余りの坐像で、ヒノキの割矧(わりは)ぎ造。
忍者のように胸の前で手を組むが、これは智拳印という印相で、この印の大日如来を金剛界大日如来という。
極めて美しい像である。頭躰のバランスがよく、安定感がある。まげはやや低めに結い、少し目尻をつり上げぎみにして、伏し目がちに。鼻はよく通る。鼻とくちびるの間は狭く、顎の線はしっかりしている。衣の線は浅いが、心地よいリズムで刻まれている。腕のアクセサリーも美しい。
さらに、胸をはじめ、体の部分部分のラインがまた美しい。
例えば慶派の鎌倉仏であれば、足をくるむ衣の曲線は、足の曲線、その豊かなふくらみをふまえてあらわす。願成就院の阿弥陀如来像など、衣はきわめて自在に表現される。一方それより前の時代、平安時代後・末期の頃の仏像であるこの大日如来像などでは、足をくるむ衣の表現は抑制的である。凹凸は抑えられ、いかにも肉体がその下に存在するという生々しい印象を与えない。
胸や腕も鍛えられた強い肉体ではなく、かといって子どもの柔らかな体でもない。要するに人の肉体を理想化したものではなく、仏とはこのようなものではないのかという人体とは別ものの理想美を平安人が追求したその到達点というべきである。
伝来したお寺の衰退によって転変してきた像だが、それにもかかわらず保存状態はよく、光背(周辺部分は欠失)、台座(上部のみ)も当初のもので、大変美しい。
その他(蔵王権現像について)
同じ河合寺に伝来した蔵王権現像は像高110センチ余りの立像。ヒノキで足下の岩まで含めて一木造。制作時期も大日如来像と同じ平安時代後・末期と思われるが、作風、構造はまったく異なる。大日如来像が洗練さの極みであれば。こちらの像は専門の仏師でない人が修行のための尊像として彫ったもののように見える。怒りをあらわした顔はユーモラスで、太い胴回りと対照的に細い手足、またその振り上げた手と足の大きな動きやひねりなど、素朴な魅力がある。
さらに知りたい時は…
『仏像 鑑賞のしおり』(佐野美術館蔵品シリーズ3)、佐野美術館、2000年
『佐野美術館蔵品撰集』、佐野美術館、1991年