伊豆ならんだの里 河津平安の仏像展示館

  土の中から掘り出されたという仏像群

住所

河津町谷津138

 

 

訪問日 

2013年6月22日

 

 

この仏像の姿は(外部リンク)

伊豆ならんだの里 河津平安の仏像展示館ホームページ

 

 

 

拝観までの道

河津平安の仏像展示館は、無住の寺院となっている南禅寺(なぜんじ)の仏像・神像を展示するための施設として、2013年2月に開かれた。

交通は、伊豆急線の河津駅から徒歩約25分。なお、駅前にはタクシーが常駐する。

 

駅の西、河津川を渡り、伊豆急線の線路の北側を西へと進む。展示館ができてまだ間もないこともあって、そこここに幟が立ち、案内看板も整備されているので、わかりやすかった。

「薬師の湯」という温泉旅館(源泉だそうで、煙が噴出している)を過ぎるとまもなく展示館専用の駐車場があり、そこから北に入る。かなりの急坂を上ること数分で、南禅寺の前に着く。展示館は南禅寺の本堂に向って右手にある。

 

専用駐車場のさらに先から車で入れる道もあるらしいが、坂を上ることが難しい方などに限られ、展示館への事前連絡が必要とのこと。

 

火・水・木曜日と年末年始が休館。(桜まつり期間は無休)

 

 

入館料

一般700円

 

 

仏像のいわれなど

8世紀なかば、晩年の行基が伊豆の地を訪れて1万躰の仏像を刻んだといい、またこの地には古代、大寺院が存在したのだと伝える。那蘭陀(ならんだ)寺という名前で、これは仏陀の古蹟であり、かつて最大の仏教の学院が存在したインド北東部のナーランダに由来する。

それが中世に山崩れのために埋まって廃絶してしまい、その仏像をのちに掘り出して、あらためて南禅寺を建ててまつったとされるが、那蘭陀寺と南禅寺は並存していたともいわれるなど、その歴史はよくわからない。

 

いずれにしても、この展示館には20躰を越える古仏が展示されていて圧倒されるが、これらは土の中から掘り出された仏像ということだ。

こうした土中出現という伝説をもつ像は各地にある。しかしこの展示館に安置されている仏像の中には、20世紀になって掘り出されたものもあるとのこと。この地にかつて大寺院が存在し、それが土石流で埋まってしまったいうのは決して単なる伝承でなく、本当にあったことなのである。

館内の仏像の保存の状態がさまざまであるのは、掘り出された時期が一様でないためと考えられる。

 

 

拝観の環境

中央に南禅寺本尊の薬師如来像、手前に二天像、そのまわりに約20躰の仏像、神像が並び、壮観である。

像はすべてガラスケースのない露出展示で、近くよりたいへんよく拝観することができる。

 

 

仏像の印象

中央に安置された薬師如来坐像は、像高は約120センチ、一木造の堂々たる仏像。平安前期の作。顔や体躯のボリューム感、衣の襞(ひだ)の力強さは圧倒的である。

「仏師は、顔や体では表現しきれない力のみなぎるさまを衣文で表わした」と述べていたNHKの番組があったが、この薬師如来像の衣は、まさにそのような霊威の発露であると感じさせる。

 

薬師如来像の斜め後ろに立つ地蔵菩薩立像、十一面観音立像は、いずれも190センチほどの長身の像である。

地蔵菩薩像はカヤの一木造、大きな額・耳たぶ・大きく弧を描く下半身の衣など、強い存在感を持つ。斜めの角度から見るとあまりに深い面奥にドキリとさせられる。両手と足先は後補。薬師如来像に近い時期の作と考えれば、東海地方最古の地蔵菩薩像ということになる(ただし、本来は地蔵菩薩でなく、神の像であった可能性も考えられよう)。

十一面観音像は、一木造で内ぐりもなく、胸かざりや腕輪まで本体から彫り出して表現するなど古様が見られる。腰の高さで結んだヒモの表現も面白いが、傷みは進んでいる。以上の3体は古色がつけられているが、これは近年の修理のときのものである。

 

そのほかの仏像は木の地肌を出し、またかなり破損が進んでいる。

薬師如来像の手前、左右に立つ二天像は、手足を失っているが、傾けた体からは躍動感やユーモラスな表現が見え、また、どことなく異国的な顔つきで、大変魅力的な像である。

地蔵菩薩像と十一面観音像にはさまれて安置される梵天・帝釈天像は、静かな印象の像である。内ぐりをもたない等、古様でもある。

 

また、立ち姿が美しい観音像、大きな頭部の不動坐像、材の性質が出ているのかやや弓なりに立つ像、ウロのある霊木を用いた女神像、まなじりを下げた表情が面白い僧形坐像など、いつまで見ていても見飽きない。

なお、材質は、仏像はカヤ、神像は広葉樹(おそらくクスノキ)だそうだ。

 

 その他

南禅寺本堂は江戸後期の建物。

現在は、かつてまつられていた仏像の写真がおかれるとともに、温泉堂(ゆのどう)という廃堂となったお堂の仏像(虚空蔵菩薩像、地蔵菩薩像)が移され、また2躰の破損仏もあわせて安置されていた。

 

 

さらに知りたい時は…

「国宝クラス仏をさがせ! 25 河津・南禅寺の仏像群」(『芸術新潮』877)、瀬谷貴之、2023年1月

『静岡の仏像+伊豆の仏像』(展覧会図録)、上原美術館、2021年

「静岡県河津町・南禅寺の平安時代仏像群について」(『鹿島美術研究年報37号別冊』)、田島整、2020年

「仏像を守る 知ることは守ること」3(『大法輪』86巻12号)、田島整、2019年12月

『伊豆の平安仏』(展覧会図録)、上原美術館、2018年

『癒しの仏 薬師如来』(展覧会図録)、上原仏教美術館、2013年

「伊豆の仏像を巡る」64(『伊豆新聞』2013年8月25日)、田島整

「伊豆の仏像を巡る」4〜8(『伊豆新聞』2012年7月1日、7月8日、7月15日、7月22日、7月29日)、田島整

『伊豆を守護する仏たち』(展覧会図録)、上原仏教美術館、2012年

「静岡南禅寺の仏像群」(『日本美術工芸』657〜659)、井上正、1993年6月〜8月

『伊豆の仏像 南部編』、上原仏教美術館、1992年

『伊豆国の遺宝』(展覧会図録)、MOA美術館、1992年

『芸術新潮』1991年2月号(特集「謎の仏像を訪ねる旅」)

「伊豆南禅寺の平安仏」(『三浦古文化』29)、鷲塚泰光、1981年6月

 

  

→ 仏像探訪記/静岡県