一乗寺と鉄舟寺の諸像
久能寺の旧仏
住所
静岡市清水区庵原町1937(一乗寺)
静岡市清水区村松2188(鉄舟寺)
訪問日
2011年6月12日、 2014年4月5日
一乗寺への道
一乗寺は曹洞宗寺院で、創建は16世紀後半。
清水駅前(JR清水駅西口(江尻口)のバスターミナル)から、静鉄バス庵原(いはら)線、上伊佐布行きまたはトレーニングセンター行きに乗車し約20分、「清水庵原球場入口」下車。バスは1〜2時間に1本程度。
地図で見ると一乗寺はバス停のすぐ南西にあるが、いったん南に下って、門前の参道に出る。徒歩5分ほど。
拝観は庫裏に申し出る。事前に連絡を入れておくとなおよい。志納。
一乗寺の阿弥陀如来像について
本堂内、本尊(釈迦如来像)の向って右の間に、鎌倉時代の阿弥陀如来坐像が客仏としてまつられている。
照明もあり、近くよりよく拝観できる。側面観もよくわかる。
像高は約65センチと小ぶりな坐像。寄木造、彫眼。
手は定印。髪は螺髪でなく結い上げ、衣は通肩に着た、宝冠阿弥陀像である。
顔つきは若々しさを感じさせ、衣の襞(ひだ)は平安後・末期彫刻に比べて深くなり、鎌倉彫刻らしい。襞の中には、枝分かれしたようにダイナミックにつくられているところもある。
同時に、落ち着いた作風の像でもある。玉眼も使用されていない。髪もそれほど高く結わず、頬も張りがあるというよりゆったりとした丸顔である。そうしたところは、前代の彫刻の特色を受け継いでいるようでもある。
額は狭く、鼻はしっかりと大きくつくるが、口は小さい。
体のつくりにそって衣の線があらわれるさまは、やや装飾的ながら、写実性に富んでいる。わずかに姿勢を反り気味にし、背から腰にかけて、また腹のふくらみなど、豊かな肉体感覚がある。
久能寺と鉄舟寺について
一乗寺の阿弥陀如来像の像内には16世紀の修理銘があり、久能寺の旧仏とある。
久能寺とは、日本平の今は久能山東照宮がたつあたりにあったお寺で、古代創建の天台宗の古刹であり、「駿河の比叡山」と呼ばれたという。一乗寺の客仏の宝冠阿弥陀像は、おそらく比叡山の常行堂の阿弥陀像にならって久能寺に安置されていた像と思われる。
戦国大名、駿河の大名今川氏が滅んだあと、一時的に静岡を支配した武田氏によってこの寺院は清水の町なかに移された。その後も江戸時代を通じて続いたが、近代になって無住となり、ついに廃寺となってしまった。
これほどの名刹が絶えることを惜しみ、山岡鉄舟が臨済宗に改めて再興。以後鉄舟寺と号している。
山岡鉄舟は幕臣で、勝海舟ならびに義兄の高橋泥舟とともに「幕末の三舟」と呼ばれる。江戸無血開城の功労者のひとりであり、剣、禅、書にすぐれていたという。
鉄舟寺の宝物館
鉄舟寺へは、清水駅前より、静鉄バス港南厚生病院線(桜ヶ丘経由忠霊塔前行き)または梅ヶ谷・蜂ヶ谷市立病院線(静岡市立清水病院行き)に乗車し約20分。「鉄舟寺」下車すぐ。
宝物館拝観は300円で、月、火、金曜日は休み。
もと禅堂だったところを改修したもので、中央の壇上の厨子中に安置される薬師如来像など、数躰の古仏を拝観できる。いずれも破損が進み、歴史の荒波をくぐってきたことがよく見てとれる。
本尊の斜め前、床に直接置かれている2躰、日光、月光菩薩と伝えられている像は、像高170センチあまり。一木造で、平安中期ごろの作。
菩薩というよりは天部のようで、おそらく梵天、帝釈天像ではないかと思われる。
プロポーションよく、表情も穏やかで、静かに立つ像だが、面奥や体には厚みがあり、損傷で像容はわかりにくいながらも、一木彫の魅力が感じられる。
鉄舟寺本堂の仏像
本堂は宝物館の先にある。お願いすれば拝観できるが、法事等もあるので、事前に連絡を入れる方がよい。
本堂本尊は千手観音立像で、像高は2メートル近い。頭部は平安時代だが、体は後世のものにかわっているという。その向って右側に安置される文殊菩薩坐像は像高50センチほどの小さめの像で、これも平安時代にさかのぼる作と考えられている。
一方、これらの仏像が安置されている本堂中央に向って右側の間、床の間のようにつくられたところに、菩薩坐像が安置されている。
像高は約70センチ。ヒノキの割矧(わりは)ぎ造、玉眼。
鎌倉彫刻らしい、力強い魅力をもった像。顔つきはきりりとして、口をきつくつぼみ、たじろぐほど厳しい表情の像である。眼光の鋭さがさらに印象を強めている。まげは高くつくる。
上半身はしっかりとした肉づきながら、同時に引き締まった様子である。
脚部は、顔や上半身とはつりあわない不規則な衣文の流れ、扁平な足裏で、後補である。
鉄舟寺のその他の仏像
山門の仁王像は江戸時代前期の像で、最近修理された。
本堂の裏山には観音堂と毘沙門堂がたっている。
観音堂本尊の秘仏・千手観音像と毘沙門堂本尊の毘沙門天像は一木造の古像で、特に千手観音像は奈良時代にさかのぼる可能性のある像という。ともに、現在京都国立博物館に寄託されているそうだ。
さらに知りたい時は…
「ほっとけない仏たち76 鉄舟寺の菩薩坐像」(『目の眼』547)、青木淳、2022年4月
『快慶』(展覧会図録)、奈良国立博物館ほか、2017年
「静岡・一乗寺所蔵宝冠阿弥陀如来坐像について」(『 昭和女子大学文化史研究』12)、古幡昇子、2009年
『最澄と天台の国宝』(展覧会図録)、京都国立博物館ほか、2005年
『静岡県の仏像めぐり』、静岡新聞社、2005年
「古代檀像の一遺例-静岡鉄舟寺の千手観音立像」(『学叢』24)、淺湫毅、2002年
『社寺調査報告 22(三千院・鉄舟寺)』、京都国立博物館、2001年
『静岡県史 中世史料編補遺』、静岡県発行、1996年