三光院の十一面観音像
4月29日に開扉
住所
沼田市柳町392
訪問日
2012年4月29日
この仏像の姿は(外部リンク)
拝観までの道
沼田は「日本一の河岸段丘の街」と称されることがあるらしい。
市の西南を利根川が流れ、その東岸に沼田駅がある。駅から東へと進むとすぐに急坂となる。利根川によって形作られた巨大な河岸段丘を一段、70メートルほどの標高差を一気にのぼらなくてはならない。上りきるとがらりと景色がかわって平坦な土地が広がるが、これが沼田城の城下町、現在の沼田市中心街である。
かつてこの地域の有力者で沼田氏という一族がいた。出自はよく分からないが、鎌倉時代から戦国時代まで活躍し、沼田城を築城した。城は段丘面の端に築かれ、天然の要害であった。戦国時代には上杉氏、武田氏、後北条氏の勢力がぶつかりあう要衝の地であったとらしい。
三光院(天台宗)は沼田城の北東、いわゆる鬼門の位置におかれている。
沼田氏はもと別の場所に城を築いていたといい、三光院もかつてはその地にあったが、居城が移されると寺も一緒に移動してきたのだそうだ。
沼田駅から三光院までは、東へとまず坂を上りきったのち、今度は北へ。沼田小学校と沼田公園の間を道なりに進み、柳町の交差点で左折。徒歩約30分。
または、沼田駅から関越交通バス沼田市保健福祉センター行き関越交通バスに乗車し、「材木町」で下車、北へ徒歩約10分。このバスを使えば、段丘を歩いて上らずにすむ。なお、お寺のすぐ前にもバス停があるが、ここを通るバスは平日のみの運行。
→ 関越交通バス
十一面観音像は秘仏で、かつては4月18日に開帳していたそうだが、現在は4月29日の日中(および元旦未明の1時間程度)に開いている。
拝観料
特に拝観料等の設定はなかった。
仏像のいわれなど
三光院の十一面観音像は、伝えによると、15世紀はじめ、沼田氏が国府の村上氏と戦い、戦利品として持ち帰ったものという。
像内に墨書銘があり、造像を担った勧進僧、仏師名、年代、願意が明確であり、大変貴重だが、残念ながらもともとどこの寺院に安置するためにつくられたものかは書かれていない。
拝観の環境
収蔵庫中に安置される。庫内は照明があり、像容がよくわかる。
仏像の印象
本像は像高180センチ強の立像。上背のある堂々たる仏像であるが、威圧感のようなものはなく、 平明で親しみやすい雰囲気の像である。
ヒノキの寄木造、玉眼。
銘文によれば、この像は十一面観音であること、作者は法橋快覚、制作年は鎌倉後期の1270年とわかる。快覚については、名前から快慶の流れを汲んだ仏師とも想像されるが、他にまったく記録がなく、どのような人物か不明。
像のすぐれた出来ばえから、まったくの地方仏師ではないだろうとは思われる。
頭上面を合わせた頭部が大きめに見え、それに比べると肩幅は張らず、腕も伸び伸びと広げてはいない。
鼻は大きめ、目はつり上がり気味であるが、卵形のような顔の輪郭、また目の輪郭も直線的であり、それが明るい印象につながっているものと思われる。
お腹はやや大きくつくるが、全体に体の厚みがあり。また、衣の襞もしっかりと刻んで、鎌倉彫刻らしい自然な存在感にあふれている。
転変を経た像ではあるが、後補部分は少なく、保存状態はきわめてよい。台座は後の時代のものだが、光背の中心部分は当初のもの。
六臂の姿について
本像の最大の特色は、腕が6本あることである。
十一面観音に関する経典は『十一面神呪心経』など4つが知られるが、その姿は2臂または4臂と説かれ、6臂を説くものはない。実際、十一面観音像のほとんどは2臂で、まれに4臂像が存在する。
しかし、手が6本の像もないわけでなく、中国の金銅仏、石仏や日本の木彫でも非常にまれではありが、作例がある。
有名な像としては、三重の観菩提寺の秘仏・十一面観音像が6臂である。
こうした経典にない像容のものがなぜあえてつくられたかは不明だが、より大きな救済能力を求めてのことであったのかもしれない。
また、同じ6本の手でも、本像と観菩提寺像では違いがあり、観菩提寺の十一面観音像では2本を手前に突き出し、2本は上へ、2本は下に向けているが、三光院像では2本は控えめに上へ、2本は下に向けるが、1番手前についている2本の手は腹前で組まれる。ちょうど胎蔵界大日如来像の手の組み方、または千手観音像が腹の前で鉢を持っている手の形のようである。
その他1
群馬県立歴史博物館の常設展示室でレプリカが展示されている。
その他2
三光院の斜め前にある歓楽院というお寺は、千手観音坐像(江戸時代)を本尊としている。この像も秘仏で、三光院の十一面観音像と同じ4月29日に開扉される。
さらに知りたい時は…
「沼田市・三光院十一面観音像について 造像背景の考察を中心に」(『群馬学研究・Kuruma』2)、 熊迫奈緒美、2024年3月
『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代 造像銘記篇』11、中央公論美術出版、2015年
「三光院蔵 木造十一面観音菩薩立像」(『国華』1393)、津田徹英、2011年11月
『東日本に分布する宗教彫像の基礎的調査研究』(『東国乃仏像』二)、有賀祥隆ほか、2010年
『十一面観音像・千手観音像』(『日本の美術』311)、副島弘道、至文堂、1992年4月