満昌寺の三浦義明像
ご神体としてまつられてきた武将の肖像
住所
横須賀市大矢部1−5−10
訪問日
2010年7月4日、 2014年8月24日
この仏像の姿(外部リンク)
よこすかの文化財・三浦義明坐像 宝冠釈迦如来坐像 天岸慧広坐像
拝観までの道
満昌寺(まんしょうじ)は、衣笠十字路(JR衣笠駅の東約500メートル)とYRP野比駅を結ぶ京急バスの「満昌寺」が最寄りのバス停。
または、JR横須賀駅か京急の横須賀中央駅から長井、三崎口駅方面行き京急バスで「衣笠城趾(きぬがさじょうし)」下車、東へ徒歩10分弱。
拝観は事前予約必要。
→ 京浜急行バス
拝観料
300円
お寺のいわれ
坂東武士の雄、三浦氏は桓武平氏流という。源頼義、義家に従って武功を挙げて、三浦に領地を有するようになった。
1180年、頼朝挙兵に呼応して三浦氏もまた兵を挙げたが、頼朝は石橋山で敗戦。三浦氏は頼朝に合流できずに衣笠城によって平家方と戦い、最後には89歳の三浦大介(おおすけ)義明が一族を安房に逃がした後、壮絶な最期を遂げた。
のちに頼朝はこの三浦義明を弔って、満昌寺を建てたと伝える。
創建当初の満昌寺についてはよくわかっていないことが多いが、密教系の宗派であったらしい。鎌倉時代末期に臨済宗に転じ、今日に至っている。
拝観の環境
満昌寺本堂の斜め後ろの高台に、御霊(ごれい)神社がある。
ご神体は三浦義明の肖像彫刻で、かつては茅葺き屋根の中に大きなお厨子が置かれ、その中に像が安置されて、ほとんど人目にふれることはなかったそうだ。今では神社は収蔵庫を兼ねた耐火建築に改められ、厨子も新調されて、事前予約すると像を拝観させていただけるようになった。
中は明るく、間近でよく拝観ができる。
また、ご本堂の像も拝観させていただける。
仏像の印象
三浦義明像は、像高約1メートルの坐像。ヒノキの寄木造、玉眼。
当時の人の背丈を考えれば、等身よりやや大きな像といえる。一族の偉大なる長老の姿としてふさわしいと考えられた姿なのであろう。
小さな冠をつけ、ゆったりとした衣をつける。いわゆる衣冠束帯の姿である。袖は左右に広げて、足は先を組んでいるが、前に鏡が置かれて、この足先は見えない。
左手に笏を持ち、右手は足の上に伏せる。左の腰には太刀を佩いている。
顔はややうつむき、額を大きく取る。口許の頬がそげたようすなど、老体を表しながらも、玉眼を効果的に用いて眼光鋭い老練な武将の姿をよく出している。
体はがっしりと、衣の線は単純化している。
肩は怒り肩で、いかにも厚みがありそうに見える。
三浦義明の時代からは数十年たった鎌倉後、末期の作と考えられているが、彼の生前を知って造ったのではないかと思えるほど、生き生きとした造形の像である。
本堂の仏像
本堂の本尊、釈迦如来像坐像はわずか40センチ弱の小さな像で、定印。宝冠、胸飾りを着けた華やかな宝冠釈迦像である。宝冠釈迦像は中世の禅宗寺院でよくまつられた像であり、満昌寺が臨済宗に転じて以後の本尊と考えられる。
細部まで精巧につくられた美しい像で、衣が台座から垂下する様子など、南北朝期の雰囲気をよくあらわす。割矧(わりは)ぎ造、玉眼。
本尊に向って右側に天岸慧広(てんがんえこう)坐像が安置されている。
天岸慧広は臨済宗の高僧。円覚寺開山の無学祖元の弟子となり、また元に渡って中峰明本(ちゅうほうみょうほん)に学んだ。帰国して、鎌倉の報国寺(竹の寺として知られる)を開くなど活躍した。満昌寺を中興して臨済寺院としたのは、この天岸慧広である。
像高80センチ弱の腰掛けた姿の像で、寄木造、玉眼。
大きな額、とがった耳など個性的な顔つきの像であり、天岸慧広の風貌を知る弟子によって造られたのではないかと推測される。天岸慧広の没年は1335年であり、その後まもなくの造立と考えられている。
その他1
三浦氏宗家は鎌倉時代後期に北条氏のよって滅ぼされるが、義明の末子で満願寺をつくった佐原義連(よしつら)の家系はその後も存続し、一族は全国にひろがってさまざまに活躍したらしい。
江戸時代には紀州徳川家に仕えた三浦氏が寺をよく支えたそうで、お堂や像の修理などを実施した。御霊神社の天井画の龍も紀州三浦氏の寄進という(その絵は現在も義明像をまつる建物の天井にある)。
今も全国から三浦氏の後裔の方が度々参拝にいらっしゃるとのこと。
なお、同じ三浦氏ゆかりの寺、清雲寺もそばにある。
その他2
三浦義明像のレプリカが神奈川県立博物館に常設展示されている。
さらに知りたい時は…
『運慶 鎌倉幕府と三浦一族』(展覧会図録)、横須賀美術館ほか、吉川弘文館、2022年
『武家の古都・鎌倉』(展覧会図録)、神奈川県立歴史博物館ほか、2012年
『よこすかの文化財』、横須賀市教育委員会、2007年
『三浦一族(改訂版)』、上杉孝良、横須賀市発行、2007年
『鎌倉の肖像彫刻Ⅱ 武人・高僧』(『鎌倉国宝館図録』37)、鎌倉国宝館、1999年
「満昌寺鎮守御霊明神社安置の三浦義明像」(『三浦古文化』52)、松島健、1993年7月
『月刊文化財』351、1992年12月
『仏像の旅』、久野健、芸艸堂、1975年