本誓寺の阿弥陀如来像
2躰の「生身仏」

住所
小田原市城山2−1−24
訪問日
2011年5月30日
拝観までの道
小田原駅西口下車、徒歩5分のところにある。
本堂の参拝はお願いするとできる。ただし、土日はほとんど法事が入るので難しく、その他多忙時も不可とのこと。
事前に拝観の予約を受けるということもしていないというお話だったが、まったく突然というのも失礼と思い、前日に電話を入れてうかがった。
拝観料
志納
お寺や仏像のいわれなど
浄土宗寺院。創建は16世紀前半と伝える。
お寺に伝来する縁起によれば、当寺の歯吹き阿弥陀如来像は、快慶が、亡くなった娘の菩提を弔うために、1222年から彫りはじめたものという。このお寺を創建した藤枝氏の念持仏であったそうだ。
拝観の環境
本尊の歯吹き阿弥陀如来像およびもう1躰の阿弥陀如来像は、本堂内に安置される。近くからよく拝観できる。
本尊について
2躰の阿弥陀如来像は、いずれも鎌倉時代の来迎印の阿弥陀如来立像である。
本尊は像高約80センチ、寄木造、玉眼。
目が大きめで、なかなか厳しい表情をしている。口をあけ、白い歯(角か骨のような素材を使っているらしい)を見せているのが「歯吹き」の相である。
清凉寺式釈迦像に代表されるように、生身(しょうじん)性を備えた仏像をつくりたいという思いが盛んになり、そのひとつのタイプとしてつくられたのがこの「歯吹き」の仏像である。また、この像は足裏にほぞをつくらず、その後ろ側に心棒を立て台座に固定している。一般に立った姿の仏像では足先のみ別につくってつけるのだが、この仏像では足首から(衣で隠れて見えない部分なのだが)別材でつくって差し込んでいるのだという。足裏には、「仏足石」にあるような模様を刻んでいるということで、これらも「生身」の仏像をつくりたいという意識によるものである。
さらに珍しいのは両手先で、銅製。これも「生身」性の獲得のためであったのか、あるいは何か由緒のある破損仏の一部が伝えられていて再利用したのか、今となってはわからない。
かつてこの仏像は、後世の修理のために、胸板は厚く塗られているなどやや像容を損ねていたが、近年修復され、面目を一新した。特に衣の部分はすっかり黒ずんでいたが、修理の結果、昔の美しい切り金がよみがえった。
整ったお姿の美しい仏像である。
もう1躰の阿弥陀像について
向って右側の間に厨子に入って安置されている阿弥陀如来像は、本尊とほぼ同じくらいの高さの像。寄木造、玉眼。
この像は、足裏に模様があることや、別材で足首以下をつくって差し込んでいる点が本尊と同じで、同様に生身仏としてつくられた像と考えられる。本尊のような歯吹きの相はなく、また、螺髪を一粒ずつ銅線を巻いて表現していることは、本尊との相違点である。
頭部は小さめにつくり、顔は真っすぐ前を見て、その表情は若々しい。
左足を半歩前に出す。
衣は襞(ひだ)を細かく刻み、腕から下がるところは非常に薄くつくられて、とても美しい。脇腹の横などに切り金が残る。ほとんど全身黒一色であるが、かつては美しく輝いていたのであろう。
さらに知りたい時は…
『足柄の仏像』(展覧会図録)、神奈川県立歴史博物館、2023年
『小田原の文化財』、小田原市教育委員会、2001年
『小田原市史 通史編 原始古代中世』、小田原市、1998年
「神奈川・善福寺の木造阿弥陀如来立像」(『Museum』484)、薄井和男、1991年7月
「小田原本誓寺の阿弥陀如来立像について」(『三浦古文化』48)、清水眞澄、1990年11月
