川原観音堂の十一面観音像
特異な存在感を放つ像
住所
草津市川原2-10
訪問日
2013年7月14日
拝観までの道
川原(かわら)観音堂は、最勝寺というお寺の境外仏堂で、同寺と道を1本隔てた南側にこじんまりと建つお堂である。
草津駅西口から北へ徒歩約30分。徒歩以外では草津駅前に常駐するタクシー、または湖国バス平井循環線で「川原」か「西武草津グリーンハウス」下車。
お堂の管理は地元の方々が行っている。開扉日は1月17日と8月17日だそうだが、その他の日でも事前連絡によって拝観させていただける。
拝観料
志納
お寺や仏像のいわれなど
この観音堂は、「十人衆」によって管理されている。「十人衆」とは、この集落に長く住む家の方の中から長老格として選ばれた方々だそうで、高齢となって活動が難しくなった方が抜ける(「顧問」となるそうだ)などすると補充し、常に10人の方がお堂と仏さまをお守りしているのだという。
本尊の十一面観音像は、もと西に300メートル余り行ったところにある天神社の本地仏(境内にあった本地堂本尊)だったといい、近代初期の神仏分離によってこの観音堂にまつられるようになったとのこと。
従って、本像はもとは菅原道真を祭神とする天神社の本地仏であった。もっともこの仏像は菅原道真が亡くなった10世紀初頭よりも前の作とも思われ、「転用」によって本地仏となったとも考えられる。
拝観の環境
すぐ近くより拝観させていただける。
仏像の印象
像高は約160センチの立像。その不思議な雰囲気ゆえに、実際よりも大きさを感じるさせる像である。
目はぐっと見開き,口もプリミティブな雰囲気である。高い上半身、強い怒り肩、まるいお腹,しっかりとくびれた胴、下にいくほど広がりを見せる条帛など、力強い造形をみせる。
肩の天衣や裙の折りかえしは、強く左右対称を意識して彫りだされる。両足の間は深く彫りくぼめられる。
上には10世紀初頭以前の像と書いたが、本当のところいつ頃の作であるか、確定的なことは言いがたい。雰囲気が特異で、類例を見い出すのが困難な像であり、造像年代を推定するのはなかなか難しいためである。
樹種はヒノキといい、一木造で、上腕、遊離部の天衣、アクセサリー、足下のほぞまで共木で刻まれる。内ぐりはほどこさない。
衣の襞(ひだ)が様式的に繰り返し折り畳まれるさまは、あたかも飛鳥仏のような雰囲気を感じさせるが、あとの時期につくられた模古的な像であるのかもしれない。奈良時代末から平安時代前期のくくりで考えるのが、可能性としては最もあり得るとは思う。
本像の特異な存在感は、一度拝観すると忘れがたい。
ただ残念なことに、全身に補修のあとがみられ、保存状態はよくない。
さらに知りたい時は…
『天神さまの美術』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2001年
『近江路の観音さま』、滋賀県立近代美術館、1998年
『草津市史』1、草津市、1981年