園城寺文化財収蔵庫の十一面観音像
平安時代前期檀像風彫刻の代表作
住所
大津市園城寺町246
訪問日
2015年1月17日
この仏像の姿(外部リンク)
拝観までの道
園城寺(おんじょうじ)へは、京阪電鉄石山坂本線の三井寺駅で下車、仁王門までは徒歩10分くらい。
門を入って正面が金堂、そこから南へ200メートルほど先に微妙寺のお堂があり、その前に文化財収蔵庫がある(2014年10月開館)。
そのパンフレットによれば「不定休」とあるが、館の担当の方にお聞きしたところ、ほぼ年中無休ということだった。
拝観料
園城寺拝観料600円
お寺や仏像のいわれ
園城寺の実質上の開祖・円珍は讃岐(香川県)の出身で、空海とも姻戚であるが、比叡山延暦寺に入って円仁などに学んだ。天台宗の密教化を進めた円仁と同様、円珍もまた入唐して密教を学び、延暦寺の別院として園城寺を再興して天台密教の興隆をはかった。
ところが、そののち円仁門下と円珍の門弟の間で対立が深まる。円珍自身はこのことを憂い、円仁門下と争わないようにと弟子に遺訓をするが、結果的に天台宗は延暦寺(山門)と園城寺(寺門)に分裂し、相争うことになる。
延暦寺は比叡山内の堂塔以外に五別所といって衛星のように寺院を置いたが、園城寺もそれに対抗して五つの別所を設けた。常在寺、水観寺、尾蔵寺、微妙寺、近松寺である。このうち現存するのは近松寺のみで、水観寺と微妙寺は園城寺内の一堂として寺名をかろうじて残している(他の2か寺は廃絶)。
微妙寺の本尊は、廃絶した尾蔵寺の本尊だった像といわれている。霊験あらたかなことで知られ、かつては参詣の人々が押し寄せて、かぶっている笠がすれあい脱げるほどであったといい、「はずれ笠の観音」「笠ぬげ観音」と呼ばれたという。
かつては土日祝日と、毎月17、18日に開扉されていたが、今は上述のように文化財収蔵庫に移されている。
拝観の環境
ガラスケース越しだが、近くより大変よく拝観できる。ただし、側面、背面からは見えない。
仏像の印象
頭部が大きく、体もずんぐりとつくられている。顔は丸顔というより横長と言いたいくらい丸々として、その上に大きくまげを作り、仏頂面をのせているので、本当に大きく見える。目鼻立ちは中央に集まっている印象である。
胸の飾りや衣の襞(ひだ)はいかにも精巧なつくりで、当時中国から伝来した白檀などの香木を使って制作された檀像彫刻を大きくして模した、檀像風彫刻である。檀像は基本的には着色しないが、本像は着色のあとがみられるという。ヒノキの一木造。
衣文はやや賑やかで、渦を巻くような文様や、太く刻まれた膝下の襞は、どっしりした体躯とともにいかにも平安前期の彫刻の特色を示している。
台座や頭上面の半数ほどは後補であり、垂下する天衣(てんね)は失われているが、総体として保存状態はきわめてよい。
上下のまぶたやほおは張りのある曲面でつくられ、お腹にみえる湾曲した陰刻線もぷっくりと若々しい肉体を強調する効果を出している。高さのある天冠台は力強さを感じさせ、下肢では衣の襞がにぎやかに連なる。腰は左側にひねり、右足を少し出す。
下肢を横切る天衣は1本で、別の側は背面を通す。
その他1
収蔵庫内にはほかに3躰の鎌倉彫刻が展示されていた。
十一面観音像と並んで展示されていたのは、像高約40センチの智証大師坐像である。
三井寺の唐院大師堂は智証大師の廟所であり、寺内でもっとも神聖な場所として一般には公開されていない。そこには3躰の秘仏が安置されているが、そのうち2躰が智証大師円珍の等身大の像で、「中尊大師」、「御骨大師」と呼ばれる。なお、他の1躰は不動明王立像(黄不動尊)である。
本像はその中の中尊大師像の模刻像である。三井寺勧学院伝来。
十一面観音像と智証大師像の背面に置かれているのが、吉祥天立像と訶梨帝母倚像である。これら2像は護法善神堂に安置されていたものだそうだ。
吉祥天像は像高70センチ弱、小さめの頭部と反り気味の体をした像である。気品に満ちた顔つきをしている。玉眼を用いた目もすがすがしい。
訶梨帝母像は右足を踏み下げ、左手で子を抱き、右手はザクロを持つ。姿勢の自然さが鎌倉彫刻らしい写実を感じさせる。
その他2
園城寺の五別所のうち創建当初から現在まで同じ場所で存続しているのが近松寺(ごんしょうじ、高観音)である。本堂は江戸中期の再建。本尊は秘仏(珍しい平安時代後期の金銅造千手観音像)だが、二十八部衆像は事前にお願いしておくと拝観できるようだ。場所は園城寺の仁王門から南に1キロ弱。最寄り駅は。京阪電鉄京津線の上栄町駅。
さらに知りたい時は…
『園城寺の仏像』2、園城寺、思文閣出版、2017年
『国宝三井寺展』(展覧会図録)、大阪市立美術館ほか、2008年
『近江路の観音さま』(展覧会図録)、滋賀県立近代美術館ほか、1998年
『十一面観音像・千手観音像』(『日本の美術』311)、副島弘道、至文堂、1992年
『秘宝 園城寺』、石田茂作、講談社、1971年