元龍寺と正福寺の十一面観音像
正福寺は毎年8月10日に開扉、元龍寺の像は龍福寺に移り、毎年8月20日開扉予定
住所
甲賀市甲賀町滝473(元龍寺)
甲賀市甲南町杉谷2928(正福寺)
訪問日
2017年8月10日
この仏像の姿は(外部リンク)
油日自治振興会・油日歴史探訪(元龍寺十一面観音像)
元龍寺について
元龍寺(がんりゅうじ)は草津線甲賀駅の南、徒歩約15分。
13世紀創建といい、浄土宗寺院だが、かつては天台宗だったとのこと。10軒にも満たない檀家さんで守っている。
本尊は秘仏の十一面観音像で、毎年8月10日に開扉。
筆者は午前10時くらいにうかがったところ、地域の方が集っていらっしゃって、あたたかく迎えていただけた。
特に拝観料等の定めはなかった。
*知人からの情報によると、元龍寺の十一面観音像は2023年3月に同じ甲賀町滝地区の龍福寺に移座された。開帳については、2024年より8月20日に行っていく予定とのこと。
元龍寺の十一面観音像
像高約160センチの立像。
お堂中央の厨子中に立つが、奥行きが浅いつくりの厨子なので、側面の様子もかなりわかる。
かつては後補の彩色がめくれ上がるなど、かなり痛々しい姿だったそうだが、近年の修復で面目を一新した。
落ち着いた穏やかな顔立ち、安定した立ち姿で、下肢を長くとり、とても美しい姿の像である。
目は切れ長、やや釣り上がり気味であるのが、顔つきを引き締めている。
ほおは抑揚が豊かで、小鼻や口は小さめだが、鼻筋はよく通り、また唇もしっかりとつくっている。
上半身は肉付きよく、腰を左にひねり、右の横腹には2本すじができて、豊かな肉体を表現している。
甲南町の正福寺について
正福寺(しょうふくじ)の最寄り駅は、草津線の甲南駅(甲賀駅から2駅草津の方に戻る)。駅から歩くと、南西方向に40分くらいかかる。
バスの場合、甲南駅から甲賀市のコミュニティバス(ハローバス)甲南・西線で「県道勢田寺」下車、徒歩5分(ただし土日は運休)。
そのほかの行き方としては、甲南駅前の売店で行っているレンタサイクル。予約できるのがよい。厳しい坂道はないが、少しずつ上っていくので、行きはややこぐ力が必要。15分くらいで着く。
正福寺は平安時代の仏像を何躰も伝え、また本堂前の石造宝篋印塔は南北朝時代のものという。しかし残念ながら、現在の正福寺の前身となった寺院がいつ、どのようにつくられたのかはわかっていない。
天台宗だったといわれるが、江戸時代に再興された際に臨済宗となり、正福禅寺とも称している。
本尊は秘仏の十一面観音像で、毎年8月10日の午前中に開扉される。
開帳を知って訪れる方や近所の方など、三々五々にお詣りがあるが、総じて静かな開帳で、ゆっくりと拝観させていただけた。
拝観料は300円。
正福寺本堂の仏像
本尊の十一面観音像は像高約130センチの立像。樹種はカヤという。頂上仏面から足下まで、また腕も両肘くらいまでを一木で彫り上げている。背面からクリを入れている。
古様なつくりではあるが、穏やかな表情と浅い彫りの衣文から、平安時代末期くらいの作と思われる。
丸顔でやさしい表情を浮かべている。体は細身で、腰をさらに絞る。かわいらしさを感じる仏像である。
写真ではほぼ直立しているように見えるが、実際には首をわずかに傾け、また腰を左にひねる。お腹はあまり出さないが、わずかなふくらみにそって条帛がきれいな曲面を描いている。
現状では、下げた右手は親指を内側にまげ、錫杖を持つ(手首先は後補)。
左右には半丈六の釈迦如来坐像、地蔵菩薩坐像が安置されている。それぞれ、もとは一寺あるいは一堂の本尊であった仏像だろう。
釈迦如来像はどっしりと安定感があり、定朝様の仏像といえるのだろうが、目、特にまぶたは力強さがある。
地蔵菩薩像はお腹に帯の結び目を見せ、錫杖と宝珠を持つ。上半身が高く、頼りがいある姿である。
正福寺の仁王像について
お寺の門には仁王像が安置されている。激しい動きを伴わない安定した姿の像で、類例の少ない貴重な平安時代の仁王像である。
傷みは進んでいるが、内ぐりもない古様な一木造のため堅牢で、よく当初の姿を保っている。材はケヤキ。像高は約2メートル。
さらに知りたい時は…
『平安の秘仏』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2016年
「甲賀市甲南町・正福寺の金剛力士像とその周辺」(『滋賀県立近代美術館研究紀要』6)、高梨純次、2006年
『湖国の十一面観音』、石元泰博、岩波書店 、1982年