正法寺(奥の正法寺)の僧形坐像
奥羽の曹洞宗の基礎をつくった名僧3人の肖像
住所
奥州市水沢区黒石町正法寺129
訪問日
2014年5月25日
拝観までの道
水沢駅前より岩手県交通バス正法寺線(「黒石寺前」を通って「正法寺」に至る路線)にて終点下車、すぐ。
拝観料
500円
お寺や像のいわれなど
正法寺(しょうぼうじ)は曹洞宗のお寺。
鎌倉末から室町初期に活躍した曹洞宗の高僧、峨山韶碩(がざんじょうせき)には25人ものすぐれた弟子がいたといい、その筆頭が、無底良韶(むていりょうしょう)という方だった。
無底は霊夢に導かれて、天台宗の古刹・黒石寺の奥の院の場所へと至り、ここに禅の道場を建てた。これが正法寺のおこりという。南北朝時代、14世紀なかばのことである。
無底ののち、弟弟子の月泉良印(げっせんりょういん)があとをついだ。
月泉の住職在任は40年近くに及ぶ。正法寺は奥羽二州の曹洞宗中心寺院として、のちには非常に多くの末寺を管轄することになるが、その基礎を築いたのが月泉である。
三世の道叟道愛(どうそうどうあい)もまた峨山韶碩の弟子で、無底や月泉の弟弟子ということになる。
長く無底と月泉を補佐し、月泉に先立って世を去るが、正法寺の経済基盤を確立するなどその功績は大きく、正法寺三祖として扱われている。
拝観の環境
正法寺には、無底良韶、月泉良印、道叟道愛の3人の肖像彫刻が伝来している。
もと開山堂にあり、現在は宝物庫奥のガラスケース中に安置されている。
宝物庫へは、本堂に向かう渡り廊下の途中右手よりいったん外に出て向かう。
やや暗いが、近くより拝観できる。
像の印象
像高は無底良韶像と道叟道愛像は55センチ強、月泉良印像は65センチ強。いずれも寄木造で、玉眼。
像内銘があり、無底、月泉、道叟の順に1393年、1394年、1395年につくられたことがわかっている。道叟像の内部に仏師立増の作であると書かれる。作風から、三像ともこの立増という仏師の作と考えられている。
3像がつくられたこの時期は月泉の晩年であり、おそらく造像は彼が依頼したものであろう。そのためか、月泉の像が一回り大きく、また作行きも優れて、生き生きとしている。
寒い寺の住職らしく、衣を重ね着するが、その様子も写実的で、安定感と実在感が備わる。玉眼によって顔には生気がもたらされ、しっかりと前を向いた表情からはおおらかそうな人柄が感じられる。
その他
この寺にはほかに古仏として、本堂本尊の如意輪観音像と、本尊に向かって左の間に釈迦三尊像があるが、本尊は秘仏。また、釈迦三尊像は震災の影響もあってか、別に保管されている。この釈迦三尊像もまた立増の作と考えられている。
さらに知りたい時は…
『大梅拈華山円通正法寺』、光陽美術、2009年
「岩手県十四世紀禅宗の仏像彫刻について」(「岩手大学教育学部研究年報」50巻2号)、田中恵、1990年
『奥の正法寺』(展覧会図録)、 岩手県立博物館、1987年
「曹洞宗の北奧布教と仏師『立増』 ーその宗教史・美術史上の意義ー」 (『岩手県立博物館研究報告』3)、大矢邦宣・田中恵、1985年