天台寺の聖観音像
「最北」の仏像
住所
二戸市浄法寺町御山久保33-1
訪問日
2014年8月17日
この仏像の姿は(外部リンク)
拝観までの道
東北新幹線またはIGRいわて銀河鉄道線の二戸(にのへ)駅より、西南に10キロあまりのところにある。
二戸駅東口よりJRバス二戸線(浄法寺方面行き)で「天台寺」下車。乗車時間は25分くらい。
下車後、バスの進行方向すぐの交差点を左折し、安比川を渡り、高速の下をくぐる。ゆるい上り坂をしばらく行くと浄法寺歴史民俗資料館の建物が見えてくるが、その手前左側に天台寺への登り口がある。ここまで徒歩約15分。
そこに「桂清水」という桂の大木の根元から湧き出す霊泉がある。おそらくこの寺のできる以前からの信仰の対象であったのだろう。天台寺の本尊は桂泉観音とも呼ばれているが、こうした自然への畏敬と習合しながら仏教がこの地に根をおろしていったことのあらわれと思われる。
この参道入口には杖が置かれて、貸し出されている。杖がある場合は、借りて上るのが賢明である。大変な急坂というほどではないが、10分ほど上って少し息が切れたころに山門が現れ、くぐると正面が観音堂(本堂)である。
筆者が訪ねたときには本堂は修復中で、浄財を募っていらっしゃった(2016年度までの予定とのこと)。
拝観料
300円
お寺や仏像のいわれなど
寺伝によると奈良時代、行基が8つの山と谷のある霊峰を求めてこの地を見いだし、桂の霊木から聖観音像を彫ってまつったのが八葉山天台寺のはじまりという。
天台寺の仏像は日本最北にある仏さまであるといわれる。
ここ二戸市は北を青森県に接し、岩手最北の自治体。これ以北にも古い時代の仏像はないわけではないが、後代に運ばれまつられたものである。古代からの寺院が連綿として今日まで受け継がれ、ずっとその地で守られてきた仏像ということでは、日本最北というべきものである。
拝観の環境
本堂の裏に2棟の収蔵庫があり、向かって右側の収蔵庫にこの寺に伝わる古仏が安置されている。ガラスケースごしの拝観となる。
仏像の印象
収蔵庫内には破損仏も含めて十躰余りの立像の仏が安置されている。すべてカツラの一木造の像である。
正面、中央に安置されている聖観音像が本尊、「桂泉観音」である。
像高は120センチほどで、それほど大きな像ではないが引き締まっているという印象で、存在感がある。
頭部と手はきれいに彫り上げられているのに対して、胸と着衣の部分はいわゆる鉈彫りで仕上げている。横の縞模様がよく揃い、美しい。
目、眉、唇、小鼻といった顔のパーツは細くつくられ、それが顔つきを引き締めているようだ。
天冠台は高く、髪際は素朴に表現される。
天衣は厚く表現され、左右の肩から下がってくる2本が膝のあたりでからむ。
あまり腰をひねらずに立つが、よく見ると重心が微妙で、動きを感じさせる。
収蔵庫のそのほかの仏像
聖観音像の左右の仏像もそれぞれ特徴がある。
向かって右に立つ十一面観音像は像高約170センチ。聖観音像よりもずっと大きく、また鉈彫りでない。何よりも引き締まった感じが薄れているが、独特な耳や天冠台の形、天衣の絡むところなど細部は共通する。
本尊を強く意識した造像であることは間違いない。
お腹はまるく膨らんでいる。
その左右に安置されている如来形立像はさらに大きく、像高180センチ弱。小さな顔、素朴な顔つき、頭部、胸、襞をまったく刻まない衣は、左右の像ですっかり共通する。本来の尊名は何であったのか、気になるところである。
さらにその左右の天部像2体も面白い造形である。胴が異様に長く、腰がやはり異様なほど太づくりである。
また、向かって右の壁側の伝吉祥天像もとても面白い。横長なほどの顔、襞や模様を刻まず、墨書であらわす服、下腹部を不自然に突き出した様子など、他のどの仏像にも似ない不思議な魅力にあふれた仏像群で、いつまでも見ていたいように感じる。
仁王門の仁王像について
山門の仁王像は左右で男女に分かれ、お札を購入して仁王像に貼ってよいことになっている。自分の直してほしいと思う部位と同じところに貼るわけで、そのためのはしごも常備されている。女性用の仁王さまの方に多く貼られていたのは、女性の参拝客が多いためであろうか。
さらに知りたい時は…
『わたしの好きな仏さまめぐり』、瀬戸内寂聴、マガジンハウス、2017年
『みちのくの仏像』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2015年
『みちのくの仏像』(『別冊太陽』)、平凡社、2012年
『鉈彫荒彫』、玉川大学出版部、2001年
『図説 みちのく古仏紀行』、大矢邦宣、河出書房新社、1999年
『仏像を旅する「東北線」』(『近代の美術』別冊)、至文堂、1990年