明王寺の聖観音像
裙、天衣が重なりあう表現の妙

住所
岡山市東区竹原185
訪問日
2009年3月27日
拝観までの道
岡山駅前のバスターミナル(11番乗り場)から宇野バス片上、瀬戸方面行きに乗車し約35分、「赤坂」下車。
→ 宇野バス
バス下車後、東南にある上道(じょうとう)公園(県立三徳園)を経由し、公園の先のハイキングコースを南へと登ってゆくと、徒歩35分から40分ほどで明王寺に着く。この道は、緑豊かな自然公園とやや急坂もあるが気持ちよいハイキングロードで、明王寺もまた自然豊かな中に南面して立っている。
途中、案内表示もあるものの、やや分かりにくい分岐もあり、地図は持つ方がよい。
聖観音像は本堂横の観音堂の厨子中に安置され、事前予約によって拝観できる。
*知人からの連絡によると、コロナ禍以後一般の拝観は行っていないとのことです(2024年4月)。
拝観料
志納
お寺や仏像のいわれなど
奈良時代、報恩大師という岡山の出身の高僧が孝謙天皇の病を祈祷によって癒し、その功により備前に48の寺院を建立する許しを得たと伝える。その中の一寺であるという。
明王寺という寺名にもかかわらず、本尊は明王像でなく毘沙門天像で、60年に一度開扉の秘仏である。
本堂の脇の観音堂に安置される聖観音像は来歴不詳。
平安前期彫刻の優れた像だが、重要文化財に指定されたのは2008年。指定を受けると収蔵庫を建てて安置することになり、信仰の対象の仏像をそういった施設に移したくないという先代住職の意向で見送られたという経緯があったとのこと。
今回、国との調整がなって、観音堂内で安置して構わないということになり、指定を受けたそうだ。
拝観の環境
お堂の中は照明もあり、近くに寄って拝観させていただける。
仏像の印象
聖観音像は像高約165センチと等身大の立像で、カヤの一木造。
わずかに片足を出すもののほぼ直立していて、鼻筋の通った端正な顔つきの像であるが、細部を見ていくと極めて個性的な造形に圧倒される。
バンドのようなもので高い位置で束ねた髪やがっしりとつくられた天冠台、大きな耳は豪放ささえ感じさせる。
乳首を作り出すのは、例がないわけではないが、とても珍しい。
端正な立ち姿や右肩からの天衣は上腕部をゆらゆらと曲線を描きながら下がる様子は天平彫刻を思わせ、条帛や下半身の裙(くん)の彫りの稠密な感じは檀像彫刻に近い。
肩からの2本の天衣のほかに腰からの天衣(てんね)もあらわされて下半身には4本の天衣が横切り、それが裙の襞(ひだ)と重なり合っている様子はほんとうにみごとである。腰のくびれや裙の折り返しの表現もすばらしい。
下肢ほど衣の襞が深くなり、両足の間などに渦巻く文が見え、また上腕部まで共木で出来る限り一木から彫り出したいという意図をもった像であることからは、平安前期木彫らしさが感じられる。
さらに知りたい時は…
『最澄と天台宗のすべて』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2021年
『月刊文化財』537、2008年6月
