円楽寺と安国寺の仏像
円楽寺には、現存最古の役行者像あり
住所
甲府市左右口町4104(円楽寺)
甲府市心経寺1200(安国寺)
訪問日
2010年10月2日
円楽寺へ
円楽寺(えんらくじ)は、甲府駅の南10キロほどのところにある。
市立甲府病院と上九一色出張所・小関町を結ぶ富士急バス(コミュニティバス)で「七覚(しちかく)入口」下車、徒歩5分。ただしこのバスは甲府駅方面からの直通ではない上に、本数少なく、また土・日は休み。
他のルートとしては、中央高速バス新宿−甲府線で「中央道甲府南」で下車、そこからタクシーといった方法が考えられる。
拝観は事前連絡が必要。志納。
お寺や仏像のいわれ
上記のように交通の便がよくない円楽寺だが、かつては甲斐と駿河をむすぶ交通の要衝にあり、近くの左右口(うばぐち)宿の風情は、往時の繁栄をしのばせる。左右口から峠を越えると(今は国道358号のトンネルだが)、富士五湖のうち精進湖を経て富士山の北麓に至るが、精進湖の名前の由来は富士登山者が精進潔斎をした場所であったことからつけられたとの説がある。
円楽寺は富士山を開いたとされる役行者開創という縁起を持ち、近代初期まで富士の北の参詣路を管理して登山者に錫杖を貸し出していたという。
本尊は運慶作の薬師如来像だったというが、本堂ともども失われ、現本堂は客殿の転用という。
また、寺外に行者堂があって役行者像をまつっていたが、老朽化によって失われ、像は本堂の正面向って左側の脇の間に移されている。
拝観の環境
堂内は、かつてまつられていた行者堂を意識した暗い照明であるが、近くからよく拝観できる。
円楽寺の役行者像
役小角、通称役行者は奈良時代以前に実在した人物だが、修験道の開祖として信仰を広く集めるようになったのは死後何百年もたってからで、その像は中世、近世のものがほとんどである。その中で、この円楽寺の役行者像は日本最古の行者像といわれている。さまざまに他の行者像との違いが見られ、定型化する以前の非常に早い時期の造形と考えられているためである。
また、像内に鎌倉時代後期の1309年を指す修理銘があり、はじめての修理が造像から100年くらいたって行われたと推測するならば、平安末期から鎌倉初期にさかのぼる像と考えられている。
役行者像は像高(坐高)80センチあまり、左足を踏み下げ座る。材はサクラという。割矧(わりは)ぎ造、彫眼。
頭巾に蓑をつけるのは役行者像としては通有だが、半跏の姿は珍しい。
また、眼はこれ以上ないほどにつり上がり、眼球は飛び出んばかりにあらわす。口を開けて、舌を見せる。凄まじい忿怒の形相で、多くの役行者像が老境の修行者の静けさを見せるのとは対照的である。さらに鼻や首など傷みが進んで、それが凄まじさをいっそう際立たせている。一度見たら忘れられない像である。
手足など後補部分がある。
その他の像
脇侍の二鬼(前鬼、後鬼)は、同じくサクラ材で、一木造。像高は70センチ前後。
目やえらが飛び出て、髪を大きくあらわし、足を開いて座る姿はきわめて印象的である。髪は、片方の鬼は焰髪、片方は巻き髪だが、どちらも非常にたっぷりとしている。こちらも手足に後補がある。
堂内にはこのほかに、役行者の老母と呼ばれる像(本来奪衣婆像であったのかもしれない)や厨子入りの童子像が安置されている。役行者像の像内に八大童子が付属していたことが記されるので、この厨子入りの童子像がそのうちの1躰にあたるのかもしれない。
安国寺の釈迦如来像
円楽寺から東へ徒歩30分ほどのところ、左右口の交差点をこえて東側の心経寺町というところに安国寺がある。
心経寺という地名だが、そういう名前の寺はない。安国寺は足利尊氏、直義兄弟が、後醍醐天皇らの菩提を弔うために、古代の国分寺にならって各国に建てた寺であるが、その多くは既存の寺院を転用したとも伝える。この甲斐の安国寺も、心経寺という前身寺院があって、それを安国寺としたのではないかと推測される。
本尊は釈迦如来像で、鎌倉後期から南北朝時代の像である。安国寺創建時の像であるのかもしれない。
像高は90センチ弱の坐像。ヒノキの寄木造。玉眼。螺髪は大粒で、ひとつひとつに渦が刻まれる。肉髻は低く、髪際はカーブを描く。安定感ある表情と姿勢で、胸部はゆったりと大きい。
修理は江戸前期に行われているが、その後再び傷みが進んで、木の接合面がゆるみ、痛々しく感じる。江戸の修理時に脇侍の阿難、迦葉像が補われたが、帳の陰でよく見えない。
拝観は事前連絡が望ましい。志納。
その他
山梨県立博物館の常設展示室に、円楽寺の役行者像のレプリカが展示されている。
さらに知りたい時は…
『金峯山の遺宝と神仏』(展覧会図録)、Miho Museum、2023年
『富士山ー信仰と芸術」(展覧会図録)、「富士山ー信仰と芸術」展実行委員会、2015年
『富士の神仏』(展覧会図録)、富士吉田市歴史民俗博物館、2008年
『山梨県史 通史編2 中世』、山梨県、2007年
『甲斐百八霊場(改訂版)』、テレビ山梨、2005年
『山梨県史 文化財編』、山梨県、1999年
『甲斐中世史と仏教美術』、名著出版、1994年