融念寺の地蔵菩薩・観音菩薩像
平安時代の仏像2躰を伝える
住所
斑鳩町神南3−5−8
訪問日
2011年7月18日
この仏像の姿は(外部リンク)
拝観までの道
斑鳩町の融念寺(神南融念寺、じんなんゆうねんじ)は、JRまたは近鉄の王寺駅から東に徒歩約25〜30分。
東に大和川支流の竜田川が流れ、北西には三室山がそびえたつという景勝地にたつお寺である。
法隆寺駅前や法隆寺前の駐車場横にあるレンタサイクルを使って行くこともできる。
拝観は、以前は月・水・金曜日に受け付けていたようだが、現在は曜日にかかわらず事前申し込みとなっている。
なお、団体よりはできれば少人数できてほしいとご住職はおっしゃっていた。
拝観料
300円
お寺のいわれなど
融通念仏宗のお寺だが、それは近世からで、それ以前の寺史は明らかでない。
地蔵菩薩立像、聖観音立像の2躰の平安仏が伝わり、恵宝殿(収蔵庫)に安置される。
拝観の環境
収蔵庫内は明るく、よく拝観できる。
地蔵菩薩像について
向って左側に立つ地蔵菩薩像は、像高約160センチ。
台座蓮肉まで共木の一木造。平安前期の仏像中もっとも魅力的な像のひとつである。
細面に豊かな胸、腰をぎゅっとしぼり、太いももへと続く。メリハリのきいた体躯だが、きわめて自然に感じる。立ち姿そのものがあまりに自然体で、ため息がでる。
顔は頭を思い切って長くし、頭頂は尖り、鼻は高い。深い陰影をたたえた目鼻立ちで、エキゾチックである。
さらにこの像が珍しいのは、下げた左手で袈裟をつまんでいる点である。それによって一般の立像とはまた異なった襞の流れができているが、それもまた自然に見えるところがまたすごい。左手から下がる衣や裾の襞も複雑で面白い。
両手先は後補。
ところで、地蔵菩薩の特に平安時代前期の作例のものは、実は地蔵像ではないかもしれないという説がある。僧形神像ではないかというものである。
法隆寺やこの融念寺の地蔵菩薩像がそうで、現在法隆寺大宝蔵院に安置される地蔵菩薩立像は、もと大三輪神社の神宮寺に伝来し、神が僧形で顕われた姿である可能性が指摘されている。融念寺の北西の三室山もまた古くは三輪の神を祀る聖地であり、その中で造像されたのが本像であって、やはり地蔵菩薩というよりは神像ではないかとする考え方が有力である。
同様に僧形神像と推測される像には、橘寺の伝日羅像、弘仁寺の伝明星菩薩像がある。
観音菩薩像について
恵宝殿内、向って右側に安置される聖観音像は、像高約150センチの立像。
樹種はハリギリという木。これは木目がケヤキに似た広葉樹である。
両腕、両足を含んで一木から彫り出されており、内ぐりもほどこさない古様なつくり。
彩色像だが、現在は若干の痕跡がわかるばかりで、ほぼ素地をあらわしている。
顔はやや小さめで、ふくれたように丸く、内向的というかやや沈んだ表情をしている。目は細く鋭い感じがする。古様な冠をつけ、また素朴な腕飾りをつけている。
上半身は広く、腰はしっかりくびれて、下肢はやや短い。越しを左にひねり、お腹や腰は厚く、足首に向けてぐっと細くなってゆく。メリハリがあるともいえるが、バランスはあまりよくなく、隣の地蔵菩薩が自然な姿で立っているのとは対照的な面白さがある。
当麻寺や室生寺の仏像にあるような板の光背がまた古様である。その裏に5行にわたって墨書があり、1069年を示す年記が書かれる。これは摂関政治の時代から院政期へ移り変わる頃で、すでに平等院鳳凰堂本尊のように寄木造が完成している時代であるが、その一方でこうした古様な仏像がつくられていることは面白い。
その他(仙光寺について)
融念寺から竜田川に沿って北に15分ほど行くと、竜田大橋という橋に出る。王寺から法隆寺方面に向うバスが通る道である。そこから北西の丘陵へと10分くらいのぼっていくと、仙光寺というお寺がある(最寄りのバス停は奈良交通バス「斑鳩交番前』)。
融念寺と同じ融通念仏宗の寺院である。本尊は本当は画像の阿弥陀来迎図らしいが、本堂の中央、本尊の位置には来迎印の阿弥陀如来像が安置され、向って左の間に客仏の十一面観音像が安置されている。拝観は事前連絡必要。
像高は約110センチ。顔は四角ばり、目はつり上がり気味、厳しく口を結び、顎のラインも力強い。
条帛の襞は鋭く刻まれており、腰はしっかりと太くつくって、いかにも一木造の仏像の魅力がある。太ももや下肢の衣文にはあまり誇張が見られず、平安時代も後半に入っての作であろうか。
もと近くにあった神宮寺観音堂本尊で、そこが廃寺になったあとは、仙光寺のすぐ南側にある春日神社に安置されていたそうだ。
さらに知りたい時は…
『月刊大和路ならら』149・150号、2011年2月・3月
『仏像』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2006年
『日本彫刻史基礎資料集成 平安時代 造像銘記篇』2、中央公論美術出版、1967年
『神像彫刻の研究』、岡直己、角川書店、1966年