奈良国立博物館の如意輪観音像
和風の檀像彫刻の優品
住所
奈良市登大路町50
訪問日
2012年10月21日
この仏像の姿は(外部リンク)
拝観までの道
奈良国立博物館は奈良公園内。近鉄奈良駅から徒歩約15分。
原則月曜日はお休み。
奈良国立博物館には木造の如意輪観音坐像が2躰収蔵されている。1躰は平安時代の作、もう1躰は鎌倉時代の作で、ここで取り上げるのは後者の方である。
本館(なら仏像館)の名品展「珠玉の仏たち」で展示されていることが多いが、一定の期間で展示替えが行われるので、同館のホームページの「なら仏像館出陳一覧」で確認して行くとよい。
入館料
平常展は700円
仏像のいわれなど
この仏像には像底に墨書があり、天王寺蔵華蔵院の本尊であったことがわかる。また、像内には納入品があり、そのうちの般若心経の奥書に蔵華蔵院の興隆を願って、鎌倉後期の1275年に造立したものとわかる。残念ながら仏師名は書かれない。
天王寺とは四天王寺のことと思われるが、蔵華蔵院については不詳。
仏像の印象
本像は像高30センチ強と、比較的小さな仏像である。ヒノキの寄木造、玉眼。
光背、台座は失われているが、本体については持物も当初のものが残り、保存状態はたいへんよい。
右の膝を立て、右の第一手を頬に寄せる通例の6臂の如意輪観音像である。
顔つきは、目を細めに、口を小さくつくって、瀟酒な美しさが感じられる。
頭部をわずかに右に傾け、身体はほぼ真っすぐで姿勢よく、右膝はかなり傾けて立てる。膝頭に右第一手の肘をついて、手の甲を上にして頬に近づけている(指先は破損)。まげを高く結い、丸顔、上半身は高さを確保し、腰は絞る。小像ながら、堂々と安定感のあるすぐれた像である。各腕は細めにつくられている。
ただ、左右のバランスという点では、右側(向って左)への肘、膝、斜め下で数珠をとる手が伸びて、そちら側にアクセントがついている。
また、右肩の天衣や膝下まで折り返された裙の衣も、像に豊かな動きをもたらしている。
和風の檀像彫刻
この像は「檀像」と考えることができる。
檀像は、もともと南方産の檀木を用いて彫られた像である。大木にはならない上に、内側の香りの高い部分だけを用いるので、大きな像をつくることはできない。木質はたいへん固く、凋密な彫刻に向いており、鋭い彫技を出すため、また豊かな香りを生かすために、唇などを一部を除いて彩色は施さない。
日本では、これを国産の針葉樹に替えて檀像風の彫刻がつくられるようになり、大型の像もつくられ、また赤や黄の色をつけて高級な檀木風の色あいとすることも行われた。さらに、平安時代後期になると、衣の部分には切り金を置いて美しく仕上げるようになった(素地切金)。
本像も肉身部は赤っぽく見えるが、これは檀木風に見せるための着色と思われる。衣には切り金が使われている。また、本体は当時の仏像彫刻一般と同じ寄木造の技法で作られている。和風の檀像彫刻の代表的な作品といえるだろう。
さらに知りたい時は…
『対比でみる日本の仏像』、鈴木喜博、パイインターナショナル、2019年
『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代 造像銘記篇』12、中央公論美術出版、2016年
『祈りの美 奈良国立博物館の名宝』(展覧会図録)、神奈川県立金沢文庫、2005年
『奈良国立博物館の名宝』、奈良国立博物館、1997年
『聖徳太子信仰の美術』、東方出版、1996年
『檀像』(展覧会図録)、奈良国立博物館、1991年
『奈良国立博物館蔵品図版目録 彫刻篇』、奈良国立博物館、1989年