長円寺の十一面観音像

  湧出するがごとき仏面の表現

住所

羽曳野市古市1丁目4-16

 

 

訪問日 

2009年1月18日

 

 

この仏像の姿(外部リンク)

羽曳野市・文化財

 

 

 

拝観までの道

近鉄の古市駅から東へ200メートルほどのところにある浄土宗の寺院。

現在は無住になっており、藤井寺市の宗善寺(そうぜんじ)のご住職が兼任されているので、宗善寺に電話で申し込むと拝観させていただける。

 

 

拝観料

志納

 

 

お寺や仏像のいわれ

長円寺は江戸時代の草創であり、平安時代の十一面観音像がどのような経緯でこの寺にまつられることになったか不明である。

東に2〜300メートルのところに飛鳥時代以来続く古刹・西琳寺(さいりんじ)がある。近代初期の廃仏で大打撃を受けて現在は小さな寺院となり、西琳寺から流出したという仏像が他寺院に伝わることから、この仏像も西琳寺のものでなかったかという推測がある。

 

 

拝観の環境

像は収蔵庫内の厨子中に安置されている。

厨子の内側は金色で、像は長く護摩焚かれてきたのか黒々としており、この金色と黒の組み合わせは、やや拝観しにくい。

堂内には照明はあるが、直接はあてないようにしているので、すぐ前で拝観させていただけるもののやや細部は見にくい。じっくりと拝観させていただくと次第に目が慣れてくる。

 

 

仏像の印象

像高は約45センチの立像で、ヒノキかと思われる材を用いた一木造であり、内ぐりをほどこさない。精緻な彫りをもつ檀像風の仏像で、平安時代前期のものである。

顔はまるまると張りがあり、目鼻は中央に集まる。首は太い。下半身の衣の襞(ひだ)はかなり深く、まさに彫技が冴え渡っているという感じである。右の冠から下がる紐が右腕のところでくるりと巻いているところや、条帛のひねりの様子、また両足間や裾に渦巻きの紋も見え、やや装飾過多ではあるが、全体の品はとてもよい。わずかにひねる腰から太ももにかけてはボリュームを感じるが、しばらく拝観させていただいていると全体的にはすらりとしているように印象が変わってくるから不思議である。

 

なんといってもこの像の特色は頭上面である。面の多くは傷みが進み、顔つきは判然としないのが残念だが、菩薩面はただ頭だけでなく首の下、首飾りまでを彫出している。本体は首が太いのだが、頭上面は首が細くあらわされているのも面白い。そして仏頂面だが、あたかも本体のまげが開いて湧出してきたように、肩と肩にかかる衣までが彫りだされている。珍しい形である。

髪は耳たぶの上を横切らず、上方にわずかにかかるのも品がよい。

両手、両足先は後補。

 

 

その他

頂上の仏面について、頭部のみならず肩までも表現している十一面観音像としては、本像以外に宝積院の像(山形市)、法華寺の像(奈良市)、道明寺の像(大阪府藤井寺市)が知られる。

このうち宝積院の像の仏面については、腕までも含む上半身像となっていて、かなり特異な造形の像であるのだが、細部について、長円寺の十一面観音像と共通点があることが指摘されている。

 

 

さらに知りたい時は…

『仏像の姿』(展覧会図録)、三井記念美術館、2018年

『木×仏像』(展覧会図録)、大阪市立美術館ほか、2017年

『週刊朝日百科 国宝の美』14、朝日新聞出版、2009年11月

「悔過と仏像」(『鹿園雑集』8)、長岡龍作、2006年

『羽曳野市史7(史料編5)』、羽曳野市、1994年

『檀像』(展覧会図録)、奈良国立博物館、1991年

『檀像』(『日本の美術』253)、井上正、至文堂、1987年

「山形宝積院十一面観音像をめぐって」(『美術史』121)、長岡龍作、1987年1月

 

 

仏像探訪記/大阪府