五島美術館

 

 東京には実業家のコレクションを基にした美術館がいくつもあり、競い合うようにして展覧会を開催している。所蔵品の分野や質、美術館のつくり、企画のたて方など、それぞれに特色がある。ここでは、その中から五島美術館(世田谷区、1960年開館)を紹介させていただく。

 五島美術館は源氏物語絵巻をはじめとする東洋美術のコレクションで知られる。

 2010年から一時閉館、2012年10月にリニューアルオープンして、「新装開館記念」の名品展が行われている。展示室は1室のみだったが、リニューアル以後2室となった。庭園も公開(ただし、2013年春までは工事のために非公開)。

 

 

1 展覧会について

 

 五島美術館はこれまで、館蔵品による企画展のほかに、年1~2回の特別展が行われてきた。

  特別展は、かなり大がかりに他の美術館や個人から美術品を集めて行われ、他館との共催のかたちをとることもある。

 私にとって忘れられない五島美術館の特別展といえば、1996年秋に行われた「牧谿」展である。

 日本の水墨画に多大の影響を与えた牧谿。このあまりにも有名な中国画僧の大規模な展覧会はそれまで開かれたことはなく、まとまった形での書籍も少ないという状態だった。東洋絵画を専門とする学芸員であれば誰もがやってみたいと思っていたかもしれないが、誰もまだ実現できなかった展覧会。その展覧会開催に挑み、かつ素晴らしい内容だった。

 「それほどの展覧会であれば…」と、普段は出し渋る美術館も所蔵の牧谿画の貸し出しをOKし、「それならばうちも」と個人コレクコターも秘蔵作品を出すのを許可するという具合に、企画が進むにつれて充実度は増し、それまで戦災で焼失したと考えられていた作品や長い間行方不明とされていた作品までもが会場に並んだ。展覧会図録もすばらしい内容であった。

 2001年秋に行われた「名物裂-渡来織物への憧れ」展も忘れがたい。

 中国などからの舶載された金襴・緞子などの美しい布は、掛け軸の表装や茶入れの袋(仕覆)などに仕立てられたが、その残片までも貴重なものとして大切にされたため、これらの布は裂(きれ)と呼ばれた。小さいものは集められ、分類されて、やがて裂手鑑(てかがみ)として貼り合わされたりもした。この手鑑を何度も繰り返して見ることで、茶人たちは研究を積んだのである。

 この特別展「名物裂」は、出来る限り多くの種類の裂を集めて展示しようという、夢のような展覧会の実現で、あたかも美術館全体が「現代の大・裂手鑑」のようになった。

 特別展のことばかり書いたが、比較的すいている通常の企画展も私は好きである。どこの館でも特別展に比べて平常の展示はとかく不人気であるという現実があるが、平常展こそその館らしさがよく見える。五島美術館の館蔵品展は、所蔵品をうまく生かして構成されていてお勧めと思う。

 

 

2 見せ方

 

 東洋古美術、例えば古代や中世の絵画は、紙や絹といった脆弱な支持体に顔料をいわば直接くっつけているという状態のものである。油絵やブロンズ彫刻と同じように扱うことはできない。ケースの中で温湿度を慎重に管理し、強い光を避け、また場合によっては展示期間も長期に渡らないようしなければならない。

 しかし、ガラスのケースに入ると、作品の魅力は確実に減じる。私は、かつて京都のお寺の宝物風入れ(虫干し)の特別公開で平安時代の絵画を拝見したことがあるが、自然光でケースなしという状態で見るとこんなにも美しいものかと感嘆した。だが、そのような見せ方は美術館では不可能である。

 美術館の使命、それは保存と公開の両立である。現在の姿を損なうことなく後世に伝えていくためには、一定の条件下での公開となるのはやむを得ないことだ。しかし、その一定の条件下で、最大限美術品の魅力を伝えるためにはどうしたらよいか、その美術館の本領が発揮される。

 

 五島美術館では、以前、掛けた絵の下部にやわらかく光を反射する板を置いたりしていた。これは上述した「牧谿」展から登場した展示の工夫で、絵が傷まないよう光量を制限しながらも、少しでも見えやすくするためのものであった。また、後ろのケースが写り込んでしまわないように、展示室の中央に幕を下げていたこともあったと記憶する。

 リニューアルオープン後は、さらに照明をはじめ展示環境が改善され、展示ケース内が明るく感じられるようになって、かつての反射板やさえぎり幕は姿を消した。しかし、絵巻物などの展示では、できるだけケースの前方に出し、見やすいような角度に調節して展示をするという工夫は、以前からのものである。

 展示環境というものは、それに順応してしまうと、当たり前のようになってしまい、工夫に気がつかなくなってしまいがちである。しかし、観覧者が展示の仕方に注意を向けることなく、作品に集中できているということは、すぐれた展示が実現できているということである。五島美術館のよい展示をめざす姿勢はとても評価できると私は思う。

 

 

3 ポスター

 

 美術館のポスター、これはなかなか微妙なものである。目立てばよいというのでは品がない。また、どうデザインしても、実物にはかなわない。

 ある美術館で開館以来のポスターを並べ、来館者によいと思うものを選ばせるという企画があったが、改めてじっくり見てよいと思えるものは少ない。

 その中で、五島美術館のポスターはなかなか個性的である。一貫してユニークなデザインで勝負している。

 例えば、2007年12月から2008年2月にかけて行われていた館蔵品展(「茶道具取合せ展」)のポスターは、黒地に黒楽茶碗を4つ並べるという大胆なものだった。五島美術館のポスターはよい。

 

 

→ 五島美術館ホームページ 

 

*最寄り駅は、東急大井町線上野毛駅。原則月曜日が休館、ほかに年末年始・展示替え期間はお休み。

 

 

 

 

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