ブリヂストン美術館、リニューアルへ

 

 戦後もっとも早くにスタートした美術館はどこか、ご存知だろうか。

 それは、神奈川県立近代美術館(公立)、東京国立近代美術館(国立)、そしてブリヂストン美術館(私立)、この3館である。

 ブリヂストン美術館の開館はまだ占領下にあった1952年1月、ブリヂストンの創業者石橋正二郎によってである。石橋は敗戦、占領という厳しい状況で多くの実業家が没落、コレクションを手放していくという中にあって、逆に美術品の収集を行うという離れ業をやってのけた。戦前日本にもたらされていた貴重な西洋絵画が日本を離れていくのを防ぐ役割を果たしたともいえる。

 そのコレクションを一般公開するために開かれたブリヂストン美術館は、東京駅からわずか数分。都心の一等地のビル内で西洋絵画を鑑賞できる空間として、開館するや大いに人気を博した。その後1959年と1999年に大規模な改修が行われ、床面積の増加、展示の充実がはかられた。

 

 私が最初にブリヂストン美術館を訪れたのはいつのことであったか、よくは覚えていないが、1999年のリニューアルの前であったことは確かである。

 その後、おそらく2001年ごろにブリヂストン美術館を再訪した。この時、それ以前とのあまりの変わりように驚ろかされた。

 まず、広くなった。ビルの2階という立地条件なので、もちろん増築は不可能であるわけだが、スタッフが入っていた部屋を別の階に移すことである程度の大きさの新しい展示室が加わった。それに加えて、受付を1階に移し、吹き抜け部分をつくり、1、2階を一体として考えることで、アプローチを中心とする雰囲気ががらりと変わった。建築の内部空間というものは工夫次第でこんなにも変えられるものなのかと、衝撃すら覚えた。

 

 次に驚かされたのは、壁の色である。

 その頃私は、美術館の壁は白であるべきだと思っていた。ありとあらゆる種類の作品すべてに対応でき、作品の雰囲気をそこなわない壁、それは白色以外にはありえないと思いこんでいた。

 ところがリニューアルを経たブリヂストン美術館は、壁を黄色や青系に塗った壁をバックに絵画を展示していたのである。

 中央の部屋(第3室)は古代ギリシア、ローマやエジプトの遺物を展示しているが、この壁紙は強い赤、そしてそのまわりを取り囲むようにして部屋から部屋へと回遊できるようになっているのだが、それぞれの部屋の壁の色を変えることで、各コーナーをより特徴づけている。

 このほか、絵の前に無粋に柵を置いたり枠線を引いたりするのをやめ、歩いてよいところは絨毯(天井が低いので、響きがちな靴音を消すという効果もあるのかもしれない)、絵に近いところは絨毯を置かずに板が見えて、自然に観覧者が作品に近寄りすぎないように誘導しているのもスマートなやり方に思える。

 

 さて、そのブリヂストン美術館が本年(2015年)より休館に入る。ビルの立て替えによるものである。

 現在、リニューアル前の最後の展覧会が行われている。館蔵品のうち、ことに人気の高い作品を展示する「ベスト・オブ・ザ・ベスト」という展覧会で、5月17日まで。

 再開館がいつになるのか明示されてはいないが、おそらく4年ほどののちに、同じ場所でブリヂストン美術館は新たな姿を見せてくれることだろう。今度はどのような美術館となるのだろうか。どんな驚きを感じさせてくれるのであろうか。

 もし、あなたがまだブリヂストン美術館に行ったことがないならば、是非今の展示をご覧になっておくことをお勧めしたい。そうすれば数年後にリニューアルオープンしたとき、以前とどこが変わったのか、どう進化したのか、比べて楽しむことができるだろう。

 

 

*2020年1月、アーティゾン美術館と改称して開館。フロア面積が大きくなり、展示の幅が広がった。

東京都中央区京橋1−7−2、原則月曜日休館。日時指定予約制をとっている。

 

→ アーティゾン美術館(外部リンク)

 

 

 

 

 

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