2015年に開館したミュージアムより

蒔絵工房NAMIKI
蒔絵工房NAMIKI

 

1 黒田記念館 (1月 リニューアルオープン)

 黒田記念館は日本の近代洋画界を牽引した巨人、黒田清輝の遺言をもとにつくられた施設である。竣工は1928年。東京国立博物館、東京都美術館、東京芸大の美術館、国際子ども図書館といったそうそうたる文化施設の中にあって、異色の存在感を放っている。設計した岡田信一郎は20世紀前半を代表する建築家で、東京府美術館(のちの東京都美術館)をはじめ、この黒田記念館、また東京芸大の陳列館なども手がけている。このうち、府美術館は立て直されてしまったが、芸大の陳列館と黒田記念館は健在であるのはうれしい。
 以前から一般公開されていたが、開館の日が限られていたこともあって、広く知られるところとなっていなかったように思う。2007年に東京国立博物館に移管され、2012年より耐震工事が施されて、この度、リニューアルオープンとなった。開館日も増え、基本的に東京国立博物館の公開日であれば開かれている。

 展示室は2つあり、黒田記念室と特別室と名付けられている。
 黒田記念室はこの記念館がスタートした当初からの雰囲気のままに展示が行われている。黒田の制作の場を偲ぶことができる場所ということができるだろう。館蔵の黒田の油彩画、デッサン、写生帖が交替で展示される(原則6週間で展示替え)。
 一方、特別室は、黒田の代表作である「読書」「舞妓」「智・感・情」「湖畔」の4作品を公開するための部屋として今回新たに整備された。展示にあわせて壁や照明が整えられ、現代の展示技術の粋が凝縮し、作品の魅力を引き立てている。ただし、開室は年間6週間に限られ、1月上旬、春(3月下旬から4月上旬)、秋(10月下旬から11月上旬)である。
 
東京国立博物館(外部リンク)
 
 
*JR上野駅、鶯谷駅、地下鉄の上野駅、根津駅からそれぞれ徒歩10~15分。公開日は東京国立博物館の開館日と同じ。入館無料。



2 蒔絵工房 NAMIKI (1月開館)

 日本を代表する筆記具のメーカーのパイロットコーポレーションの前身は、1918年に創業した並木製作所である。工場は大塚にあったが、戦災で失われため、戦後新たな生産拠点として神奈川県平塚市にあった旧海軍の火薬廠(しょう)跡地の一部を得た。
 現在も同社が販売する万年筆のすべてが、ここ平塚工場でつくられている。万年筆のペン先の加工や組み立ては基本的に手作業であり、海外に拠点を移して人件費の抑制を図るという道もあったかもしれないが、それよりも国内での技術の継承を重んじている。

 平塚工場内に海軍時代から続くレンガづくりの建物が残されている。ここに蒔絵の万年筆を展示する施設がオープンした。

 日本の伝統的な技術である蒔絵と西洋から来た万年筆という組み合わせによる蒔絵万年筆は、海外の高級万年筆に対抗するために開発されたもので、贈答用や儀式で用いられ、同社の看板商品ともなった。
 この施設を訪れると、職員の方がていねいに展示解説にしてくださる。また、実際に蒔絵師が作業する様子を見ることができたり、蒔絵の技術を解説したビデオの視聴もできる。この会社が大切に育ててきた文化や技術を広く、ていねいに伝えていきたいという考えがよく伝わってくる。

PILOTホームページ・『蒔絵工房 NAMIKI』開館のご案内(外部リンク)


*平塚市西八幡1-4-3 平塚工場内、見学は事前に予約が必要。土日祝日やゴールデンウィーク、夏休み期間、年末年始は休み。入館無料。



3 東京都江戸東京博物館常設展示室 (3月リニューアルオープン)

 東京都江戸東京博物館は1993年に両国駅の北、国技館の東隣に開館した。
 常設展示室は建物の5、6階を占め、日本橋、芝居小屋など大規模な復元模型や鹿鳴館、ニコライ堂などの精密な模型で人気を誇る。
 2014年12月から翌年3月まで約4ヶ月間休室とし、リニューアルが行われた。内容は照明の改善、カーペットの張り替え、模型の増設や改良、コーナーの新設などである。
 「文明開化東京」のコーナーにある銀座4丁目の模型は、1880年代前半ごろの銀座通りの様子をあらわした精緻なものであるが、今回高さを下げ、また横からも鑑賞できるようにしたり、また、映像と組み合わせることでよりわかりやすいものとなった。
 大型の模型では、戦後の団地(ひばりが丘団地)が加わった。生活感のある室内風景がノスタルジーをくすぐる。
 「現代の東京」など、コーナーの新設も行われた。もともとの展示は1960年代までだったが、それが2010年まで拡張され、それぞれの年代のトピックが展示されている。
 多くの博物館の常設展示がつくって終わり、その後はまとまった予算がつかないことが多いと聞くが、この博物館のように新たな切り口で見せる展示を加え、充実をはかっていくことは大切と思う。

江戸東京博物館ホームページ(外部リンク)


*東京都墨田区横網1-4-1、最寄り駅はJR、都営地下鉄線の両国駅。原則月曜日休館。



4 増上寺宝物展示室 (4月開館)

 東京・芝の増上寺内に、かつて台徳院殿霊廟という建物があった。三代将軍徳川家光が父秀忠の廟としてつくったものだったが、20世紀なかばに戦災で焼失し、今はない。
 しかし、その精密な模型(10分の1スケール)がイギリス王室に保管されていた。1910年にロンドンで行われた博覧会に東京市(当時)から出品され、その後イギリス王室に贈呈されたのだという。今回、その里帰り(長期貸与)が実現し、増上寺の大殿(本堂)の地下に設けられた展示室で見ることが可能となった。四方から、また霊廟本殿の内部もできる限り見えるよう配慮された展示となっている。
 まわりの壁付きのケースには、狩野一信の五百羅漢図をはじめとする増上寺伝来の宝物の展示が行われている(企画展示が行われることもある)。一信は江戸後期の画家で、その代表作である五百羅漢図は村上隆、近藤智美など今日のアーティストにも多大な影響を与えている。全100幅もの大作であるので、10幅くらいずつ、期間を区切って交替で展示する。
 増上寺には徳川将軍家代々の墓所があり、そことの共通拝観券も販売している。

増上寺宝物展示室ホームページ(外部リンク)


*東京都港区芝公園4-7-35、最寄り駅は都営地下鉄線の御成門駅、芝公園駅、大門駅。原則火曜日および展示替え期間は休館。



5 たばこと塩の博物館 (4月リニューアルオープン)

 たばこと塩はかつて専売制であった。
 専売制というのは、特定の商品について、自由な生産や流通を認めず、国などが全面的に管理し、利益を独占するしくみをいう。江戸時代後期には財政難で苦しむ各藩が専売制を行うことがあったが、近代に入り、富国強兵政策を支える有力な財源として政府はたばこを専売とした。一方、塩も戦費調達のために専売制となったが、嗜好品であるたばこと違い、人が生きていくのになくてはならないものであるという観点から、どの地域でも同じように購入が可能とするためでもあった。


 大蔵省の専売局が直接扱っていたたばこや塩の専売制は、戦後、日本専売公社に引き継がれた。その過程で収集されていたたばこや塩に関する民俗・歴史・文化的資料を広く公開し、合わせて専売制について人々に理解を深めてもらうためにと、博物館が構想された。それが実現したのが1978年に渋谷の公園通りにオープンしたたばこと塩の博物館であった。

 以来、企画展の開催や体験的なイベントの実施など、企業博物館として充実した活動を続けてきたが、建物の老朽化や収蔵スペースが手狭になったことから移転、リニューアルオープンとなった。日本たばこ産業(JT)の倉庫の一部を改修した施設は十分な天井高があり、スペースも広くなって、観覧しやすくなった。
 建物の外壁の茶色はたばこの葉を、1階エントランスの床の乳白色は塩をイメージしてつくられている。
 ショップも充実している。
 
たばこと塩の博物館ホームページ(外部リンク)


*東京都墨田区横川1-16-3、最寄り駅は東武線のとうきょうスカイツリー駅、都営地下鉄線の本所吾妻橋駅。原則月曜日休館。
 


6 麻布大学 いのちの博物館 (9月開館)

 麻布大学が設立されたのは1950年だが、前身の獣医学校の時代から数えると100年を越える伝統校である。その創立125周年を記念し、これまでの歴史を展示で振り返るとともに、収集してきた教育資料を保管し広く公開するため、博物館が開かれた。
 一角に設けられた「ハンズオンコーナー」(ただし土曜日のみ)では、さまざまな動物の骨に触れながら、その特徴を実感することができる。在校生がサークル活動としてサポートを行う体制を整えており、大学内に設けられた博物館ならではの活動がなされている。
 
麻布大学いのちの博物館ホームページ(外部リンク)


*相模原市中央区淵野辺1-17-71、麻布大学百十周年記念開館内、最寄り駅はJR横浜線の矢部駅。原則日・月曜・祝日休館。無料。
 


7 東京黎明アートルーム (10月開館)

 南アジア・東南アジアの石の仏像や中国、朝鮮、日本の小金銅仏、陶磁器、「四季花鳥図屏風」(鈴木其一)をはじめとする近世の日本絵画などを収蔵する美術館である。これらコレクションは以前から細々ではあるが公開されてきたそうだが、今回、小規模ながらも本格的な美術館として開館を果たした。
 開設にあたっては、既存のミュージアムの良いところを積極的に取り入れたという。確かに、展示は見やすく、また空間のつくりも上手だと感じる。特に解説パネルが簡潔でわかりやすく、また字が大きいのはとてもよい。
 1ヶ月に半月程度開館。石仏などは常設展示だた、他はその度ごとに異なった展示を行う。

東京黎明アートルームホームページ(外部リンク)


*東京都中野区東中野2-10-13、最寄り駅はJR、都営地下鉄線の東中野駅。開館日はホームページにて確認のこと。



8 アートファクトリー城南島 (10月グランドオープン)

 旧東急イン物流センターの建物を用い、企業が支援する文化活動の場として整備された。
 展示、アーティストの制作スタジオとしての活動、ワークショップなど、多彩な活動を展開。すでに活動は部分的にはじまっていたが、今回グランドオープンとなった。
 特に、1階の巨大な空間の中で常設展示されている三島喜美代の大きな作品には圧倒される。

アートファクトリー城南島ホームページ(外部リンク)


*東京都大田区城南島2-4-10、JR大森駅(東口)、京浜急行線大森海岸駅、平和島駅、東京モノレール流通センター駅(南口)より京急バス森32系統(城南島循環)」 に乗車し、「城南島二丁目」下車。土日は不定休。入館無料。



9 貨幣博物館 (11月リニューアルオープン)

 この博物館は、古代から現代までのさまざまなお金、そしてその関連の資料がとにかくたくさん並べられて圧倒されるが、その中核をなしているのは「銭幣館コレクション」と呼ばれる収集品である。
 これは古貨幣の研究家・収集家として知られた田中啓文という方の旧蔵品で、約10万点にのぼる大規模なものである。1923年に自邸内にれんが造りの「東洋貨幣研究所 銭幣館」を設け、保管・展示を行っていたことからこの名がある。
 それが日本銀行に移されたのは、1944年。東京への空襲が激しくなる中、コレクションの保全を願ってのことであった。
 敗戦後、その中の特に金貨、銀貨が占領軍によって接収の対象とされた。その際、日銀はこれらを文化財として自ら守り、公開することをGHQに説いて、コレクションを守ったという。
 公開を行うというその時の話はなかなか実現にはいたらなかったが、30年余の歳月を経て、1985年、「日本銀行金融研究所 貨幣博物館」が開館のはこびとなった。創立100周年の記念事業の一環として日本銀行本店に隣接する場所(日本銀行分館内)に開かれたもので、しだいに東京都心のユニークなミュージアムとして知られるようになっていく。当初は土日休館であったが、のちには月曜休館に改められ、来館者も増加した。
 その一方で、かつて日本最古の銭貨とされていた和同開珎に先行する富本銭の存在が知られるようになるなど、研究の進展によって展示を改める必要が生じた。こうして開館から30年を経て、リニューアルとなった。

 展示のメインは古代から現代までの日本の貨幣の通史である。そのほかに企画展示コーナーもある。
 お金が各時代でいかなる意味をもってつくられ、流通していったのか、またそれは時代とともにどう変わっていったかをていねいに説明している。実物資料が充実し、解説は簡潔でわかりやすい。浮世絵など関連する資料もあわせて展示されているのもうれしい。展示ケースをめぐる順序もわかりやすく案内されている。
 知ってほしい、満足させたいという意気込みのようなものを感じさせる充実した展示になっていると思う。

日本銀行 金融研究所 貨幣博物館ホームページ(外部リンク)


*東京都中央区日本橋本石町1-3-1(日本銀行分館内)、最寄り駅は東京メトロ三越前駅。原則月曜日休館。入館無料。



10 ささやま丘の上ミュージアム (12月開館)

 地域からさまざまな歴史資料の寄贈を受け、それをもとに資料室を設けているという小学校は意外に多いという。しかし、それを十分活用できているのかというと、なかなか難しいのというのが現状であろう。
 横浜市では、市の歴史博物館の職員が、学校に眠る郷土資料を活用して、これまで一度も博物館に行ったことがない子どもたちや、博物館にあまり縁のなかった大人たちを迎えるため、地域の資料室を整備する手助けをするという事業を展開している。なかなかおもしろい試みと思う。
 横浜市緑区にある市立笹山小学校にも「民具室」があり、地域から寄せられた民具などの歴史資料が置かれていた。しかし、どのように整備し、展示し、学習に役出てていけるのか、具体的なビジョンはなく、長く休眠状態だったという。そこで市の歴史博物館がノウハウを提供し、地元の有志の方々や大学生が農機具を洗ったり、資料の分類・整理、写真撮影、キャプション付けなどをすることによって、約1年半をかけて資料館のオープンへとこぎつけた。
 展示台や模型など、みな手作り。体験コーナーも設け、さらに四季折々の催しも行っている。解説のパネルは、展示品が何に使われ、生活をどのように変えるきっかけになったのかなど、わかりやすく書かれている。
 横浜市内には、この笹山小学校以外にも、資料室が整備され公開されている学校がある。運営や整備のあり方はそれぞれのやり方で行っているそうだ。


ささやま丘の上ミュージアムホームページ(外部リンク)


*横浜市保土ケ谷区上菅田町1422 笹山小学校体育館1階、横浜市営バス92系統「笹山団地入口」下車。第2・4の土曜、日曜日に公開。入館無料。

 

 

 

 

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たばこと塩の博物館
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