2007年に開館したミュージアムより

21-21デザインサイト
21-21デザインサイト

 

1 人間国宝美術館(1月開館)

 

 JR東海道線湯河原駅から徒歩15分のところに開かれた私立の美術館。人間国宝(重要無形文化財保持者)作家による陶磁作品を主として集め、展示している。

 陶磁器、とくに茶器は手触り、重さ、口をつけた時の感触などを知りたい。見ただけではどうしても物足りないが、まさか触らせてくれるような美術館はないだろうと思っていた。ところが、この美術館では人間国宝作家の茶碗でお茶がいただける。入場料には一服の料金が含まれていて、1階の受付横に並ぶお茶碗の中から好きなものを選ぶことができる。筆者は萩の三輪壽雪の大きな茶碗でいただいたが、とてもよかった。

 

*2021年より休館。所蔵品は姉妹館である熱海山口美術館(2020年開館)で見ることができるようにするということである。

 

→ 熱海山口美術館のホームページへ 

 

 

 

 

2 サントリー美術館 / 21_21デザインサイト(3月開館)

 

 2007年は、六本木に3つの美術館が開館した。まず、1月に国立新美術館が旧防衛庁跡地にオープンしたが、コレクションを持たない「ハコもの」であり、残念なことであった(暮沢剛巳『美術館の政治学』(青弓社刊)に的確な評があるのでご参照を)。                                                                

 3月、東京ミッドタウン内にサントリー美術館と21_21デザインサイトが開館した。

 サントリー美術館は、1961年開館というから、東京の私立美術館の中では古株といってよい。六本木に移ってくる前は赤坂見附のサントリーのビルの中にあり、天井も低く、手狭であった。東洋の古美術を主として扱っているが、根津美術館の『燕子花図屏風』、五島美術館の『源氏物語絵巻』、出光美術館の『伴大納言絵詞』のように誰もが知る「名品」を持たない。その分よく練られた企画展示が行われ、健闘していたと思う。

 六本木での新開館を記念しての展覧会、9月から10月にかけて行われた『BIOMBO/屏風 日本の美』展は印象深い展覧会であった。海外の美術館が所蔵する屏風の中にサントリー美術館蔵の屏風とひと続きのふすま絵であったものがあるという研究成果に基づく展示が目を引いた。

 

 国立新美術館やサントリー美術館の開館に比べ、マスコミ等で取り上げられる機会は少なかったが、同じ東京ミッドタウンの敷地内に日本最初のデザインに関する本格的なミュージアム、21_21デザインサイトがオープンした。名称の21_21の由来は、英語で完璧な視力を「20/20」と表現するのだそうで、それを越える先見性を持ちたいという意気込みから来ているという。

 このミュージアムも国立新美術館と同様にコレクションを持たない「ハコもの」である。しかし同じ「ハコ」でも意味合いがまったく異なる。まず、規模が国立新美術館に比べてはるかに小さい。この小さな中に、過去のデザインを保存し交代で展示するというのでなく、まさに今の時代にふさわしいもの、さらに時代を先取りするデザインを提示していくという一本通った骨格がある。

 ディレクターには、三宅一生・佐藤卓・深澤直人の三人のデザイナーが就任している。企画展は、そのうちの一人が中心となるが、方針は3人の議論で進められているらしい。最初の企画展のテーマは「チョコレート」、次は「水」で、生活を豊かにするもの、ユーモアに富んだものだけでなく、社会性のあるものや今の時代に真に必要である思考が盛り込まれたデザインが展示され、ともにユニークな展覧会だった。今後とも楽しみなミュージアムである。

 両端が鋭角の、いかにも使いにくそうな建物の設計は安藤忠雄。しかし、その中で企画展をどう展開するかということもまた見る側としては楽しみである。

 

→ サントリー美術館のホームページ  21_21デザインサイトのホームページ 

 

*サントリー美術館は原則火曜日休館(元旦と展示替え期間も)。東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガーデンサイド

*21_21デザインサイトは原則火曜日休館(年末年始と展示替え期間も)。東京都港区赤坂9-7-6

 

 

 

3 横須賀美術館(4月開館)

 

 用があって、相鉄線の緑園都市という駅で降りたことがある。駅のそばのビルが次々と連結していて、ずいぶんふしぎな町だなと思った。後になって知ったのだが、それはある建築家の提案によるものであった。

 この駅ができてしばらくは、駅のまわりにはほとんど何もなかったそうだ。その理由は、てんでに勝手な建物を建てられると町の統一感がなくなると考えた鉄道会社が、一時的に周囲を借地したためだったという。鉄道会社の言い分も分からないではない。はじめにビジョンを打ち出さないと、後になってはもう遅い。しかし、地権者のすべてが合意できる町のあり方を提示することは至難であり、結果的にいつまでも駅の周りが空洞という状態が続いた。その時、必ず隣のビルとの通路を開くという一点のみを条件とし、あとはそれぞれに任せてよいではないかという案を提示したのが山本理顕である。これによって、細胞が次々と連結しているような面白い町の誕生となった(詳しくは『建築の可能性、山本理顕的想像力』、山本理顕、王国社、2006年)。

 この山本理顕の設計による新しい美術館が横須賀市に誕生した。場所は観音崎の自然公園の一角で、三方は丘に囲まれ、すぐ前が海という景勝地である。正面がレストランという思い切ったつくりであるが、それ以上に驚くのは、ガラスで全面を覆い、その内側をさらに白の壁面で囲い、そのところどころに穴をつくって、ガラスを通して入ってくる外光を通すというなんともユニークな建物となっていることである。1階中央が企画展示室。地下の常設展示室では、天井の高い通路上の部屋と四角い展示室を組み合わせている。個性的な建築ではあるが、常設展示室を地下にもってきたことによって建物全体が低く抑えられ、周囲の風景によく調和している。

 このような形となったのは、合理的な理由がある。海からの潮風は美術品に悪影響を及ぼす。従って全面ガラスばりとしてこれを保護し、また、レストランなどを外側にして、展示空間は内側にもってゆく。内側の白い壁面はどのような美術作品にもよくあい、さらに穴によって閉塞感を解放でき、明るい空間を生み出している。

 

→ 横須賀美術館ホームページ 

 

*休館日は原則毎月第1月曜日と年末年始。 最寄りのバス停は「観音崎京急ホテル・横須賀美術館前」。 住所は横須賀市鴨居4丁目1番地 

 

 

 

4 佐川美術館・樂吉左衞門館(9月オープン)

 

 1998年、琵琶湖にほど近い滋賀県守山市に開館した佐川美術館は、日本画の平山郁夫、ブロンズ彫刻の佐藤忠良の作品を展示する2つの棟からなっていたが、そこにこの度、陶芸家15代(当代)樂吉左衞門の館が加わった。

 樂吉左衞門館は茶室と展示室からなるが、その設計はすべて樂本人が行った。地上に出ている部分は茶室広間のみで、茶室の中心部分は地下1階、展示室は地下2階である。

 今、「地上に出ている部分は」と書いたが、正確には「水上に出ている部分は」である。この美術館は水に囲まれてつくられ、その水の下に茶室と展示室はある。樂は、なんとまわりにヨシの茂る島までつくってしまった。とんでもない美術館ができた。

 筆者の持つ美術館のイメージとこれほど合わない美術館もない。まず、水である。しばらく前のヨーロッパ中部を襲った水害で、美術館の地下がどれだけ大変なことになったか。美術品と水は、できる限り離しておくべきなのだ。次に、館内は暗く、スポットライトに頼っているという点。暗い空間とスポット照明の組み合わせが日本に入って来たときはとても斬新に感じたが、じきに飽きてしまった。今は全体が明るい空間の方が好ましく思う。そして展示の高さ。私は約170センチだが、この身長で茶碗の中がほとんど見えない。それだけ高い位置で展示しているということだ。もっと背の低い人は、茶碗の重要な要素である内側の底の部分(見込み)はまったく見えないことになる(開館記念展ではそのように展示されていた)。

 その照明だが、スポットと蛍光灯の併用で、さらに作品によっては下からの補助ライトが加わる。この併用は作品を劇的に見せる効果がある。ガラスケースは大きく、壁全体を覆い、爽快感すら感じる。作品が置かれる台、さらに壁、床、そしてところどころに置かれた木のベンチ、館内の隅々に至るまで神経がゆきとどいている。さらに、ひとつの部屋など、天井から水を通した外光が差し込み、床に美しい影をうつしているのだ。

 美術品の美しさをいかに引き立てる展示を行うかで勝負するのが美術館というものだ。しかし、ここでは美術品と展示環境は一体化しているとさえいえる。

 良くも悪くも、現代の美術館の到達点というべきである。

 

→ 佐川美術館ホームページ 

 

*休館日は原則月曜日と年末年始(展示替え等のための臨時休館あり)。JR琵琶湖線(東海道線)守山駅またはJR湖西線堅田駅よりバス(佐川美術館前下車)、住所は滋賀県守山市水保町北川2891

 

 

 

5 兵庫県立考古博物館(10月開館)

 

 体験型の考古ミュージアムである。特にユニークなのは地下1階の「バックヤード見学デッキ」で、収蔵庫内の保管状態や土器の修復作業の様子をガラス越しに見学できる。はるか昔の時代の展示は、現在の研究や作業によって支えられているということが実感できる空間である。月1回、バックヤード見学ツアーも開催されている。

 

→ 兵庫県立考古博物館ホームページ 

 

*原則月曜日および年末年始休館。JR山陽本線土山駅下車15分、 住所は兵庫県加古郡播磨町大中500

 現在長期休館中(2021年9月〜2023年3月までの予定)

 

 

 

 

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